……春。出会いと別れの季節。
『それじゃああおいちゃん、今日からよろしくね』
『……はい。あざみさん』
そう言ってアザミは、最後の別れをしておいでと、二人のところへ葵を促す。
『……さいご……』
自然と、歩くスピードが遅くなる。
『……ひきとられたら、もう。会え、ないのかな……』
そうしていると、向こうが葵を迎えに来てくれた。
『あおいちゃん……っ』
『……っ、本当に、行っちまうのか』
二人とも、目に涙を浮かべていた。
『え。……えっと……』
葵は、どうしたらいいかわからなかったけど、膝につくぐらい頭を下げた。
『……いままで。おせわになりましたっ』
そして頭を上げて。
『とっても、たのしかったです! わたしのこと、そだててくれて、ありがとう! ひいのさん! みずかさん!』
『……っ、あおい、ちゃんっ』
『あおい。かならず、助けてやるからな』
名前のことかな? 助けてもらう、か……。格好いいな。
『わたしも、だれかのことを助けられるような人間になりたい、です』
『できるわ。あなたなら』
『ああ。お前は、最初で最後のオレの弟子だからな』
そう言って、頭を撫でてくれた。
『……? でし? みずかさん、いっぱいいる……』
『あれは教え子。……あおい? オレは弟子なんか取るつもりなんてなかったんだ』
『でもな』と、しゃがんでミズカは視線を合わせる。
『お前には強くなってもらいたかった。お前自身だけじゃなく、お前の大切な人間を守れるだけの力を、お前には叩き込んできた』
『……はい』
『だから、お前に大切な奴ができたら、守ってやれ。もちろん自分も守れ。それぐらい、お前は今敵無しだ』
『ははっ。……そっか』
『最初で最後のオレの弟子なんだ。オレの顔に、泥なんか塗るんじゃないぞ』
『はいっ。もちろんです! ししょー!』
葵が笑顔でそう言うと、ミズカは鼻水を垂らしながら抱きついてきた。
『……きたないぃぃー……』
『さいごぐらいゆるせっ』
そう言って、鼻水を思いっきり服に付けられてしまった。お気に入りだったのに。



