すべてはあの花のために⑦


 ……春。出会いと別れの季節。


『それじゃああおいちゃん、今日からよろしくね』

『……はい。あざみさん』


 そう言ってアザミは、最後の別れをしておいでと、二人のところへ葵を促す。


『……さいご……』


 自然と、歩くスピードが遅くなる。


『……ひきとられたら、もう。会え、ないのかな……』


 そうしていると、向こうが葵を迎えに来てくれた。


『あおいちゃん……っ』

『……っ、本当に、行っちまうのか』


 二人とも、目に涙を浮かべていた。


『え。……えっと……』


 葵は、どうしたらいいかわからなかったけど、膝につくぐらい頭を下げた。


『……いままで。おせわになりましたっ』


 そして頭を上げて。


『とっても、たのしかったです! わたしのこと、そだててくれて、ありがとう! ひいのさん! みずかさん!』

『……っ、あおい、ちゃんっ』

『あおい。かならず、助けてやるからな』


 名前のことかな? 助けてもらう、か……。格好いいな。


『わたしも、だれかのことを助けられるような人間になりたい、です』

『できるわ。あなたなら』

『ああ。お前は、最初で最後のオレの弟子だからな』


 そう言って、頭を撫でてくれた。


『……? でし? みずかさん、いっぱいいる……』

『あれは教え子。……あおい? オレは弟子なんか取るつもりなんてなかったんだ』


『でもな』と、しゃがんでミズカは視線を合わせる。


『お前には強くなってもらいたかった。お前自身だけじゃなく、お前の大切な人間を守れるだけの力を、お前には叩き込んできた』

『……はい』

『だから、お前に大切な奴ができたら、守ってやれ。もちろん自分も守れ。それぐらい、お前は今敵無しだ』

『ははっ。……そっか』

『最初で最後のオレの弟子なんだ。オレの顔に、泥なんか塗るんじゃないぞ』

『はいっ。もちろんです! ししょー!』


 葵が笑顔でそう言うと、ミズカは鼻水を垂らしながら抱きついてきた。


『……きたないぃぃー……』

『さいごぐらいゆるせっ』


 そう言って、鼻水を思いっきり服に付けられてしまった。お気に入りだったのに。