『はじめまして。もう一人のあおいちゃん。私のことは、日記で知っていたみたいだね』
『……だから?』
好戦的な態度。いいな。ぞくぞくする。
『いやね? あおいちゃんにも言ったんだが、よければ私のところに来ないかい?』
『……どうでもいい』
『君は、大人になったらちゃんと出てきてくれるんだろう?』
『……だからなに』
『是非、君の力を貸して欲しいんだ』
『……わたしは……』
そう言って少しだけ、赤い瞳が揺れた。
『……あおいがそうするなら、そうするだけ』
『……そう』
『まって大人まで』
『ん?』
『でも、無理をすればするほど、あおいは短くなる』
『……無理って? たとえば?』
『……あたま、つかう。からだ、つかう』
『(……でも彼女には、そんなことは容易いか……)』
頭がよすぎる、運動神経もよすぎると聞いた。
『(まあ大人になるまで待てば変わるのだろう。だったら楽しみに待っておこうじゃないか)』
にたり、アザミは口角を思い切り上げて嗤った。
『ありがとう。……あおいちゃんに変われるかい?』
『……はあ』
赤い瞳を閉じると、スッと空気が変わる。
『………………』
『……あおいちゃん』
ゆっくり目を開いた瞳は黒い。
『……あ、れ? あざみ、さん。わたし……』
『今ね、もう一人のあおいちゃんになっていたんだよ』
『ええ!?』
葵は自分の体を掻き抱く。
『大丈夫だ。もう、大丈夫だからね』
『……あざみさん。きもち、わるかった、でしょ……?』
『そんなことはない。どちらもあおいちゃんだ』
『……っ、ありが、とう……』
『あおいちゃんは、あおいちゃんじゃない時の話って、どこかで聞いているのかい?』
『……? ……聞こえてる時もあります。でも、だんだん聞こえなくなってる気がする……』
『そうか。……今は? 何か聞こえた?』
『……? お話、したんですか?』
ということは、聞こえていないということか。
『今ね? もう一人にも、是非家に来てくれないかって聞いていたんだ』
『え!? そ、そうなんですか……?』
『彼女は、あおいちゃんがそうしたいならって言っていたよ』
『……そう、ですか……』
そう言って葵は、しばらく考えたあと。
「(……っ、だめっ……!!)」
『……あざみさん、わたし……』
「(おねがい、だからっ。やめて……!!)」
『……あざみさんに、ついていきます』
『……そうか。それは嬉しい』
アザミは、嬉しそうに……本当に嬉しそうに嗤った。
『やっぱり、大好きなんです。大事なんです。二人が』
『うん』
『だから、わたしがいちゃいけないんです。そう、思いました』
『……そうか』
『あざみさんのお役に立てるなら、がんばりたい』
『ありがとう』
『……わたしのお花。さかせたいんです』
『ああ。……きっと綺麗で、大きな花が咲くよ(それも真っ赤な花がね)』



