すべてはあの花のために⑦


 それから葵は、二人には心を閉ざすようになってしまいました。二人はどうしたらいいかわからず、悩んでいました。


『こんにちはあおいちゃん』

『……あ! あざみさん!』


 でも、アザミが訪れる時は嬉しそうにする葵を見て、二人は苦虫を噛み潰したような顔をいつもしていました。


『(あ。そういえば、一緒にお話……しなくていいのかな?)』


 前もそんなことを言われたような気がしたけど、二人がアザミを見る視線が怖くて、そんなこと言えませんでした。


『あおいちゃん? 花壇のとこ行く?』

『……! はい! 行きます!』


 それから二人で話す時は、必ず花壇のところで内緒話をするように話をしていた。


『今日はね、お話を持ってきたんだよ』

『おお! お手伝い! がんばりますっ』


 そう言って彼が見せてきたのは…………あれ? この間の人?


『……あざみさん? このひと、おくすりみつばいした……』

『そう。よく覚えているね』


 よしよしと、頭を撫でてくれる手がとっても温かかった。


『この間捕まえたんだよ』

『ほんとですか! すごい!』

『それもあおいちゃんのおかげだ。ありがとう』

『おやくに立ってる! よかったです』


 綻ぶ葵の顔を、やさしくアザミが撫でる。


『でもね? やっと捕まえたのに逃げられてしまったんだ』

『ええ!? そ、それは大変です!』

『うん。……でもね。悪いことしたって思ったのか自害したんだよ』

『え……』


 顔が暗くなる葵の頭を、やさしく撫でる。


『あおいちゃんが悪いことなんて一つもないんだよ? 自害されたのは悔しかったけど、でもこれで一つ犯罪を阻止できた。今日は、その報告もしたかったんだ。ありがとう』

『……死ぬのは。いや』

『……あおいちゃん?』


 急に葵の雰囲気が変わる。アザミは、にやりと口角を上げる。


『こんにちは。もしかして、もう一人のあおいちゃんかな』

『……どうみょうじ、あざみ……?』


 そう切り替えしてきた彼女の瞳は、真っ赤に染まっていた。


『いい目をしている。やはり私の目に狂いはない』

『……なに』

『そうだ。君ならどうするか聞いてみるのも楽しそうだ』


 そう言ってアザミは、もう一枚の写真を取り出す。


『ここの会社は、多くの犠牲を生んで成り上がった会社なんだ』

『………………』

『我が物顔でトップに居座るその会社を、私は潰してやりたい。……何か案はあるかな』

『……ぼうりょくだんと、おなじことすれば?』

『……おなじこと?』

『……うちがわから、こわせば?』


 至って淡々と答える葵に、嬉しそうに頬が緩む。


『(……内部から攻撃か。なるほど)』



 完全に枯れてしまった花の名は…………


                  サ
                  ク
                  ラ
                  ソ
                  ウ。



 そして、根っこを腐らせてしまったのは…………


                  ア
                  ネ
                  モ
                  ネ
                  の
                  花。