『(それは、……いいことを聞いた)』
だんだんと、アザミの口角が上がっていく。
『……ね? あじゃみさん。わたし、きもち悪いです』
不安げに瞳を揺らす彼女に、嬉しそうに笑いかける。
『そんなことはない。名字は言えないのかな』
『……言ったら、わたしは消えるから。……消えたく。ないから……』
『(今すぐにでも言ってもらいたいが。……まあ大人になるまで待つのも一興か)』
『……さいきん。二人がいっしょうけんめいいろんなこと、おしえてくれるんです』
『前から教えてたんじゃないのかい?』
『そうなんですけど。……前よりも濃いって言ったらいいですかね。何でかな、って思って……』
『(ああ。……それはさっき二人から聞いたな)』
アザミはニタリと一瞬嗤ったあと、顔を元に戻す。原因は自分が話している内容にあるが……。
『実はね? 私は、あおいちゃんが二重人格なのを知っていたんだ』
『え……!?』
『知っていても、君のことを気持ち悪いなんて思わなかった。……安心して? 私が君を気持ち悪いと思うことなんてないからね』
『……あり、がとう……』
『さっきお二人と話してたんだけど、二人があおいちゃんに今まで以上にたくさんのことを教えようとしている理由を聞いたんだ』
『え? そ、そうなんですか……?』
うんと、アザミは大きく頷く。
『もう一人の君が、夜中の間は絶対に出てくるんだって言っていたよ?』
『え? そう、なんですか……』
『毎日日記書いてるんだろう? それを読んでいるって言っていた。時々暴れる時もあるけど、最近は落ち着いてるって言っていたよ』
『……しらな、かった……』
確かに、日記を書くことは契約だった。でも読んでるとか、そんなことは全然知らなかった。
『お二人は、そんなあおいちゃんを何とかしてあげたいんだって』
『……だから、いろんなこと、おしえてくれてるんですね』
小さく、嬉しそうに彼女は笑った。
『愛されているね』
『……そう。だと、うれしいです』
ちょっと、くすぐったそうだ。
『それでね? 実は私も、あおいちゃんの助けになる約束をお二人としてるんだ』
『え? そ、そうだったんですか……!?』
『うん。あおいちゃんの名前を呼んであげる。そうしたら君は、君でいられるんだろう?』
『……はい。なまえ。呼んでもらえたら、もうきもち悪くない。……あ。でも、あたまがいいのはなおらない……』
ん~……と葵が首を傾げながら唸っている。
『気持ち悪くなんかないよ? それはね、天才と言うんだ』
『え。……でも、そんなに綺麗なものじゃ……』
『君は十分綺麗だ。そして美しい……』
そう言ってアザミは葵の頬に手を伸ばして、やさしく撫でる。
『あ。……あり、がとう。ございます……っ』
ちょっと恥ずかしかったのか、目が泳いでいる。
『私が、君の名字を必ず見つけてあげるからね』
『……ありがとう、あじゃみさん』
『どういたしまして(……そして見つけ次第、誰にも見つからないようにしておくよ)』
心の中で、楽しげに嗤っていた。
『あ。……で、でも、やってもらってばかりは……その。もうしわけない、です』
『……ううん。大丈夫。君にはいつも助けてもらっているからね』
『……?』
『また何かあったら、君の知恵を貸してくれるかい?』
にっこりそう笑ってやると、嬉しそうに葵も笑う。
『はい! わたしなんかでおやくに立てるなら!』
『……ありがとう。あおいちゃん』
そしてまた、いつものように頭を撫でて、アザミはその日は帰って行った。



