ある日、花壇から花の芽がぴょこっと出ていました。
『あ! めがでてる~! かわいいっ』
葵は、ヒイノから教えてもらったお歌の鼻歌を歌いながら水やりをしていました。
『やあ。お花は咲きそうかい?』
『あ! あじゃみさん! まだめがでたばっかりなんです』
葵はアザミと話をするのは楽しかったので、来る日はとてもわくわくしていました。
『ごめんね。今日はお話は特にはないんだ』
『あ。……そう、ですか……』
しょんぼりする葵にアザミはぽんと頭に手を置く。
『先にお二人とお話してくるからね? そのあとは、あおいちゃんのお話をして欲しいな』
『え? ……わたし?』
『うん。そういえばちゃんとあおいちゃんのこと知らないなと思って。よければあとで教えてね』
ぽんぽんと頭を撫でたあと、アザミは家の中に入っていった。
『(……。でもわたし。きもちわるい……)』
話そうか話すまいか考えていると、すぐにアザミが家から出てきた。
『どう? 話、してくれる?』
『……きもち悪く、なるかもしれません』
『そんなことはない』
そう言って、アザミは葵に腕を回してやさしく抱き締めてやる。
『こんなに可愛いのに、気持ち悪いなんて思わないよ?』
『……ん~……』
『あ。……それじゃあ、先に私から話そうか』
『え?』
そう言って、葵の返事も聞かずにアザミは自分のことを話すけど、前教えてもらったことばっかりだった。
『……それ。前も聞きましたよ……?』
『おや? そうだったか。でもこれぐらいしかないからな~』
そう言うアザミは、葵の話が聞きたくてうずうずしているようだった。
『……えっと。それじゃあ、はなし、ます……』
『ありがとう』
そう言って葵はゆっくりと、自分の今までを話した。
『わたし、ぜんぶおぼえてるし、よくきがつくんです』
『へえ。そうなんだ』
『あたま、いいってわたしは思わないんですけど、みんな言うからそうなんだと思います』
『そうだね。えらいえらい』
『……でも。言っちゃいけないことと、言っていいこと、わからなくって』
『ん?』
『おとうさんとおかあさん。仲、わたしのせいで悪くなっちゃったんです』
『……どうして?』
『おとうさん、おかあさんのともだちとよくあそんでました。おかあさん、よるにあそびにでておさけのんで、たのしそうにかえってきてました』
『……そうか』
そう聞いて、アザミは葵の頭を撫でる。
『そのこと言ったら、二人にきらわれちゃいました。……うみに。すてられました……』
『くるしかったね。……そっか。それでミズカさんに拾われたのかな?』
そう言うと、葵は難しい顔をしていた。
『……わたし。もっと、きもち悪くなりました……』
『(……ここか……)』
アザミの顔も険しくなる。
『ふねにのってて。おっこちちゃって。……死んじゃうかと思ったんですけど。たすけてもらったんです』
『……誰に?』
『……『わたし』に、です』
『どういうことかな』
『わたし。おおきく、なれないんです』
『(……これは、二人から聞いていないな……)』
『たすけてくれたわたしに、名字とられちゃいました。……たすかったけど。でも、わたしはだれかに名前を呼んでもらわないと。わたし、消えちゃうんです』
『(……よくわからないな。この子が話してる話が本当だとして……)』
『こんなわたし、きもち悪いから。何回も死のうと思いました。……でも、もう一人のわたしがいつもわたしを助けるんです。大人に。なれないのに……』
『(……おもしろい)』
『だれかに呼ばれないと、わたし、消えるんです。たすけてくれたわたし、わたしよりも賢いんです。わたしなんかよりずっと……』



