すべてはあの花のために⑦


 助け船を出したつもりだったシントは、目を丸くした。隣に座るトーマがにこりと笑っていたから。


「今は葵ちゃんの話をしているわけではないですよね? 今話をしているのは『信人さんがどうしてここへ帰ってきたか』でしょう? だったら、なんであなたが話せないのかと思って」


 シントと同じようにみんなも目を丸くしていたものの、トーマの言葉の意味がわかったみんなは、立て続けに言葉を発する。


「どうやって道明寺は、シントさんを隠したんですか?」

「信人さんは道明寺で何の仕事をしていたんですか?」

「あっちゃんは友達が欲しかったはずです。でも、あっちゃんは信人さんに『執事になってください』って言った。その理由を、あなたは知ってるんじゃないですか?」

「しーくんは、どうして記憶を忘れないといけなかったの?」

「どうしてシン兄は、クリスマスパーティーの頃からそれどころじゃなかったんだ」

「しんとサンが皇だということを、道明寺は知っていたってことですか?」

「シントさんが、あいつがアキと婚約者候補だっていうのを知ったのは、いつっすか」

「シントさんは今、次期当主になったんですか」

「……信人さんは、結局どうやってここまで帰ってきたんです?」


 そのみんなの勢いがすごすぎて、シントは椅子から転げ落ちた。


「ぶはっ! みんな、超ウケる」


 そして、前のめりな面々を見て盛大に噴き出す。
 そんな態度に苛つく面々だったけれど、そのあとシントは小さく笑った。


「うん。その通り。『俺のこと』は話せるからね。いつ誰が気がつくかと思ったけど、……流石は魔王様?」

「葵ちゃんにならいっくら言われてもいいですけど、あんたに言われるのは嫌ですね」

「ん? 何か言ったかな?」


 バチバチと、二人の間に火花が散っていた。
 でも、そんな雰囲気をやさしい笑みで断ち切ったのは、紛れもないシントだった。


「大丈夫。ちゃんと答えるよ。俺よりもまず、みんなが知りたいことに答えようか」


 みんなは、『だったらさっさと早くしろ』と思いました。
 しかし、そんなこともわかっているのか、シントはキサの方を向いてにっこりと笑いかける。そしてトーマにも。


「……ねえ? 紀紗ちゃん? 杜真くんも?」

「…………」

「……ま、もう終わったみたいですし」


 みんなは、首を傾げていた。


「まずアキ。あの時俺に聞いたよね? 『誰が一番葵に近づいているのか』って。覚えてる?」


 あの時とはいつのことなのか。知らない面々も、ただ黙って話を聞いていた。


「覚えてる、けど。……もしかして」

「そう。アキが聞いてきた時点で、一番知ってたのは『紀紗ちゃん』。次いで『杜真くん』だ」


 トーマは何となく知ってはいそうだった。けれどまさか、キサの名が出てくるとは。予想外にみんなは驚きを隠せない。


「俺が知ってた範囲だから、その時も『一概には言えない』って言ったんだ。……まあ何でかって言ったら、朝倉先生のせいなんだけどね~」


 キサとトーマは「やっぱりか……」と大きなため息をついた。


「じゃあ紀紗ちゃん。話せるところまででいいから、話してあげられる?」

「と言っても、あたしもあんまりわかってないんですけど」

「うん大丈夫。恐らくだけどみんな、理事長のところへは行ってるはずだから」

「……わかりました」


 キサは真っ直ぐにみんなを見つめたあと、話し出す。