助け船を出したつもりだったシントは、目を丸くした。隣に座るトーマがにこりと笑っていたから。
「今は葵ちゃんの話をしているわけではないですよね? 今話をしているのは『信人さんがどうしてここへ帰ってきたか』でしょう? だったら、なんであなたが話せないのかと思って」
シントと同じようにみんなも目を丸くしていたものの、トーマの言葉の意味がわかったみんなは、立て続けに言葉を発する。
「どうやって道明寺は、シントさんを隠したんですか?」
「信人さんは道明寺で何の仕事をしていたんですか?」
「あっちゃんは友達が欲しかったはずです。でも、あっちゃんは信人さんに『執事になってください』って言った。その理由を、あなたは知ってるんじゃないですか?」
「しーくんは、どうして記憶を忘れないといけなかったの?」
「どうしてシン兄は、クリスマスパーティーの頃からそれどころじゃなかったんだ」
「しんとサンが皇だということを、道明寺は知っていたってことですか?」
「シントさんが、あいつがアキと婚約者候補だっていうのを知ったのは、いつっすか」
「シントさんは今、次期当主になったんですか」
「……信人さんは、結局どうやってここまで帰ってきたんです?」
そのみんなの勢いがすごすぎて、シントは椅子から転げ落ちた。
「ぶはっ! みんな、超ウケる」
そして、前のめりな面々を見て盛大に噴き出す。
そんな態度に苛つく面々だったけれど、そのあとシントは小さく笑った。
「うん。その通り。『俺のこと』は話せるからね。いつ誰が気がつくかと思ったけど、……流石は魔王様?」
「葵ちゃんにならいっくら言われてもいいですけど、あんたに言われるのは嫌ですね」
「ん? 何か言ったかな?」
バチバチと、二人の間に火花が散っていた。
でも、そんな雰囲気をやさしい笑みで断ち切ったのは、紛れもないシントだった。
「大丈夫。ちゃんと答えるよ。俺よりもまず、みんなが知りたいことに答えようか」
みんなは、『だったらさっさと早くしろ』と思いました。
しかし、そんなこともわかっているのか、シントはキサの方を向いてにっこりと笑いかける。そしてトーマにも。
「……ねえ? 紀紗ちゃん? 杜真くんも?」
「…………」
「……ま、もう終わったみたいですし」
みんなは、首を傾げていた。
「まずアキ。あの時俺に聞いたよね? 『誰が一番葵に近づいているのか』って。覚えてる?」
あの時とはいつのことなのか。知らない面々も、ただ黙って話を聞いていた。
「覚えてる、けど。……もしかして」
「そう。アキが聞いてきた時点で、一番知ってたのは『紀紗ちゃん』。次いで『杜真くん』だ」
トーマは何となく知ってはいそうだった。けれどまさか、キサの名が出てくるとは。予想外にみんなは驚きを隠せない。
「俺が知ってた範囲だから、その時も『一概には言えない』って言ったんだ。……まあ何でかって言ったら、朝倉先生のせいなんだけどね~」
キサとトーマは「やっぱりか……」と大きなため息をついた。
「じゃあ紀紗ちゃん。話せるところまででいいから、話してあげられる?」
「と言っても、あたしもあんまりわかってないんですけど」
「うん大丈夫。恐らくだけどみんな、理事長のところへは行ってるはずだから」
「……わかりました」
キサは真っ直ぐにみんなを見つめたあと、話し出す。



