それからだんだんと温かくなり、葵はもう一度花の種を蒔きました。
『あいじょう。……いっぱいあげないとっ!』
毎日朝昼夕とお水をあげて、お話をして、葵の思う愛情をたっぷりあげました。
『ひいのさんひいのさん!』
『ん? なに? あおいちゃん』
『すきってどんなの?』
『え?』
でも、葵は至って真面目にそう聞いていた。目が、とってもキラキラしている。
『うーん。そうね? わたしがあの人に向けるもの、かしら?』
『わかりません……』
『……うーん。それじゃあ……』
と言っていたら、畑からちょうどミズカが帰ってきた。
『ただいま、んっ。……へ?』
『おかえりなさい?』
『きゃあー!!』
帰ってくるや否や、ミズカにヒイノがキスをした。
『え。え? ひのちゃん? ど、どうしたの? いっつもしてくんねえのに……』
『あおいちゃんに特別に見せてあげただけ~』
『おー! とくべつ!』
ミズカはわけがわからず首を傾げているが、顔がヘラヘラしていて気持ち悪かったのでヒイノが鳩尾に拳を一発入れていた。
『こういうことってね? 特別な相手じゃないとしたくないものなのよ?』
『とくべつ……』
『オレたちとあおいの関係も特別だけどな? それとは違うんだ』
『はんじゃいしゃはおことわりします』
『はいはい……』
『だからね? わたしの特別はこの人。でも、一番大切なのはあおいちゃんよー!』
『わわっ!!』
また抱きつかれてしまった。ヒイノは本当に葵によく抱きついてくる。
『う~ん。とくべつなのに一番じゃない? なんでですか?』
『それはね? あなたのことが愛おしいからよ?』
『……みじゅかさんは?』
『もちろん愛しいわ?』
『ん~。……わかんない……』
『ふふっ。そのうちわかるわ?』
ヒイノは、葵のおでこにちゅっとキスを落とした。
『え? い、いまのは……?』
『これは、愛おしくてするの。あの人のお口にしたのは、大好きだからよ?』
『ひのちゃ~ん……』
『……わたしも。いつか。すきなひとできたら、これ返す』
『ん?』
そう言って葵は胸のそれを、ぎゅっと小さな手で掴む。
『(……大事にしてくれていたら、それだけで十分だけど……)』
でも、葵が好きになる人をちょっと見てみたい気もするし。ちょっと楽しみだったりする。



