すべてはあの花のために⑦


 それから寒くなった頃、またアザミはやってきました。


『こんにちはあおいちゃん? お花は咲いた?』

『まださかないんです。……まだまだ、あいじょうっていうのが足りないのかなあ……』


 そう言う葵は少し寂しそうだったけど、出た芽を見つめる目は希望でいっぱいだった。


『あおいちゃん? 今日もお話いいかな?』

『あ。はい。……このあいだ、おやくに立てましたか……?』

『潰すまではいかなかったけれど、少しずつ崩せていったらいいかなって思うよ』

『……すみません』


 謝ってくる葵の頭を、笑いながら優しく撫でてやる。


『ううん大丈夫だよ。協力してくれてありがとう。きっと君は、ヒーローになるよ』

『……そうだと。いいですね』


 小さく笑う葵に、今度はアザミは一枚の写真を取り出す。


 見せてくれたのは、男性と女性と、小さなこどもが写っている写真。彼らも、見ているだけで心が温かくなった。


『かわいい……』


 写っている子供は、とっても可愛らしくて食べてしまいたかった。


『…………じゅる』

『あ、あおいちゃん……?』

『あ。す、すみません……』

『実はこいつがね、薬を密売していることが発覚したんだ』

『……くすり? みつばい……』

『あ。わからなかったかな?』

『みつばいは、ほうりつをむししてひそかに売ること』

『……うんそうだね。流石よく知っている』

『おくすり? とみつばいが、結びつかない……』

『薬というのは、所謂覚醒剤のことだよ』

『……!! それはいけない!』

『そうなんだ。だから、あおいちゃんの力を貸して欲しい』

『……できることがあれば……』

『売っていることはわかっているんだけど、その証拠がないんだ』

『う~ん……』

『警察に見つからずに売るには、どうしていると思うかな』


 そう言うアザミに、葵は考え込む。


『……なまえ?』

『ん?』

『なまえが、ちがう人のだったらわからないんじゃないですか?』

『……他人の名前を借りている、ということか』

『だったら、つかまるのはその人だし。……でも、つかまった人がバラしちゃわないように、口止めしてるかもしれません』

『(口止め……いや。捜査を打ち切りにすれば……)』


 葵の話を、黙って真剣に頷いてアザミは聞いている。


『……うん。じゃあその線で調べてみようと思うよ。ありがとう』


 そう言ってアザミは嬉しそうに頷きながら、葵の頭を撫でて帰って行きました。



 その案で引き抜いた花は…………


                  サ
                  ク
                  ラ
                  ソ
                  ウ
                  の
                  花。