それから寒くなった頃、またアザミはやってきました。
『こんにちはあおいちゃん? お花は咲いた?』
『まださかないんです。……まだまだ、あいじょうっていうのが足りないのかなあ……』
そう言う葵は少し寂しそうだったけど、出た芽を見つめる目は希望でいっぱいだった。
『あおいちゃん? 今日もお話いいかな?』
『あ。はい。……このあいだ、おやくに立てましたか……?』
『潰すまではいかなかったけれど、少しずつ崩せていったらいいかなって思うよ』
『……すみません』
謝ってくる葵の頭を、笑いながら優しく撫でてやる。
『ううん大丈夫だよ。協力してくれてありがとう。きっと君は、ヒーローになるよ』
『……そうだと。いいですね』
小さく笑う葵に、今度はアザミは一枚の写真を取り出す。
見せてくれたのは、男性と女性と、小さなこどもが写っている写真。彼らも、見ているだけで心が温かくなった。
『かわいい……』
写っている子供は、とっても可愛らしくて食べてしまいたかった。
『…………じゅる』
『あ、あおいちゃん……?』
『あ。す、すみません……』
『実はこいつがね、薬を密売していることが発覚したんだ』
『……くすり? みつばい……』
『あ。わからなかったかな?』
『みつばいは、ほうりつをむししてひそかに売ること』
『……うんそうだね。流石よく知っている』
『おくすり? とみつばいが、結びつかない……』
『薬というのは、所謂覚醒剤のことだよ』
『……!! それはいけない!』
『そうなんだ。だから、あおいちゃんの力を貸して欲しい』
『……できることがあれば……』
『売っていることはわかっているんだけど、その証拠がないんだ』
『う~ん……』
『警察に見つからずに売るには、どうしていると思うかな』
そう言うアザミに、葵は考え込む。
『……なまえ?』
『ん?』
『なまえが、ちがう人のだったらわからないんじゃないですか?』
『……他人の名前を借りている、ということか』
『だったら、つかまるのはその人だし。……でも、つかまった人がバラしちゃわないように、口止めしてるかもしれません』
『(口止め……いや。捜査を打ち切りにすれば……)』
葵の話を、黙って真剣に頷いてアザミは聞いている。
『……うん。じゃあその線で調べてみようと思うよ。ありがとう』
そう言ってアザミは嬉しそうに頷きながら、葵の頭を撫でて帰って行きました。
その案で引き抜いた花は…………
サ
ク
ラ
ソ
ウ
の
花。



