『もしよかったら、あおいちゃんと話をしてきてもいいですか? 今どこに?』
そうしてアザミは席を立った。
「(……やめてっ)」
『それなら外の花壇のところにいると思います』
「(来ないで。……来ないでっ!!)」
『アザミさんも、たくさん話してやってください。きっと、あなたの話も興味津々に聞くでしょうから』
「(やめてえ……!!)」
『そうですか。それは……たのしみだ』
そう言ってアザミは部屋を出て一歩、また一歩と、葵のいる花壇へと近づいてくる。
「(逃げて! 花のお世話なんていい! だからっ。……逃げて!)」
『あおいちゃん? お花に水をあげてるのかい?』
『あ。……はい。そうです。お水をあげたらおはなしして、あいじょうをあげないといけないんです』
『そうか。じゃあそれが終わったら私と、あおいちゃんが知らないようなお話しないかい?』
『知らないはなし……うん。知りたい!』
「(……っ。ぅぅ……っ)」
そんな悪魔の囁きに、葵は涙を流しながら耳を塞いでいた。
『きょうはね、みじゅかさん、ひいのさんにどろっぷきっくされてたんだよ? なのにうれしそうにわらってた。きもちわるいよね~』
『(え。……そんなことを話しかけるのかい、花に……)』
『おやさいもおおきくなってきたよ? あなたたちも、おおきくなって、きれいなおはなさかせてね?』
『………………』
にっこり、綺麗な顔で笑う彼女に一瞬心を奪われる。
『はい! おまたせしました! どうみょうじさん!』
『……あざみでいいよ? あおいちゃん』
『……? あじゃみ、さん?』
『(……ああそうか。ザ行が言いにくいのか。でも、これはこれで可愛……)』
ぶんぶんと、アザミはいきなり頭を振って葵は驚いてしまった。
『どうしたんですか?! ハチ?! ハチがいたんですか!?』
『いや大丈夫だ。気にしないでくれ』
そう言いながら頭を抱えるアザミに、葵はこてんと首を傾げる。
『(……うちは、ひ弱な男児だからな……)』
あいつも女の子に見えなくもないが。……やはり本物は美しい。
『あじゃみさん? あたまいたいですか? いたいいたいの、とんでけ~ってしますか? それともおくすりのむ?』
『……いいや、大丈夫だよあおいちゃん』
話が一向に進まない。アザミは気持ちを切り替えて葵と話をする。
『あおいちゃんは、お二人の子じゃないんだってね』
『………………』
『どこからきたのかな。おとうさんとおかあさんは? 名前はなんていうのかな?』
『………………』
『うん言わなくていい。つらかったね。でもよく生きていた。よかったよかった』
『……?』
『……君にね? ちょっとこれを見て欲しいんだ』
「(――! だめッ!! 見ちゃダメ……っ!)」
『これは……?』
葵は、ある立派な日本家屋の前で写真を撮っている男性と女性、それから葵くらいの小さなこどもと、たくさんの男の人が写ってる写真を見せられた。みんな笑顔で笑ってて、見ているだけで胸が温かくなった。
『実はね、こいつらは悪い奴らなんだ』
『え? 悪い……? そんなふうには、みえない、です』
だって、こんなにも楽しそうな雰囲気が伝わってくるのに。
『こいつらが笑えてるのはね? たくさんの犠牲があったからなんだよ』
『え……』
『実はおじさんね、警察の人と仲が良くて。こういう悪い人たちを退治する仕事もしているんだ』
『……せかい。へいわ……?』
『そうそう。世界はそのうちできたらいいなと思うけど、取り敢えずは自分が住んでいる地域は平和にしてあげたいと思ってね?』
そう言ってにっこり笑うアザミにつられて、葵もにっこりと笑った。
『ここの家はね、暴力団の家なんだよ』



