だいぶ経った頃、シントがやっと落ち着きを取り戻しました。
「そっか。そうだね。確かに全部ではないけど、どうしてなのかはわかるかもしれない」
「シン兄、俺だけに連絡先教えてくれたのって……」
「お前が葵の婚約者候補だから。それを知ったら連絡が来ると思ってたんだ」
「連絡したし」
「だから、俺がそれどころじゃなかったんだって」
本当に、本当にいろいろ話が脱線しすぎですが、今は『どうしてシントがここへ帰ってきたのか』について話をしています。
ごほんごほんと、二回今度は咳をして、シントはやっと話を進めることに。
「俺がここへ帰ってきたのは、葵がアキを、友達として好きだからだ」
みんなは真剣にシントの言葉を理解しようと話を聞いている。
「葵との婚約者候補は、皇の次期当主のアキだ。俺は道明寺で過ごした記憶を消され、解雇された。葵は俺に、本当の家族を返してくれた」
「だから俺はここへ帰ってきた」と、さらっと言ってのけるけれど。
「いや、突っ込みどころ満載っすけど……」
「でも、しーくんはあーちゃんのこと、覚えてるんでしょ? それはなんで?」
「それは、葵の感謝状のおかげだよ」
「……感謝状、ですか?」
「うん。ごめんね圭撫くん。これ以上は言えないんだ」
理事長から、シントから話を聞いていた面々は押し黙ってしまった。
「どうして言えないのか、教えていただけませんか?」
しかし、それを同じように聞いているはずのトーマはそう尋ねた。
この下りを経験しているみんなは、『やめておけ!』と言いかけた。けれど言葉を発するよりも先に、案の定シントの纏う空気が変わる。
「君も言われなかったのか、理事長から」
「聞きましたよ? でも、どうしてなのかは聞いていませんし」
そう食いつくトーマに、誰かの喉がゴクリと鳴る。
シントはまるで、それから説明しないといけないのかと言いたげに大きくため息をつき、口を開こうとした。
「それは、他人を介しちゃいけないから」
「間に人が入ると、その人の意見が混じるから」
「だから、あっちゃんを知るには、あっちゃん自身に近づく必要があるのよ」
しかし、そんなシントが話し出す前に、ヒナタ、ツバサ、キサが言葉を漏らした。
「え。なんで紀紗が……まさか、お前も知ってんの?」
黙りこんだキサとトーマとの間に、シントが割って入る。
「それはあとだ。杜真くん? そういうことだから」
「葵ちゃんは、ですよね?」



