すべてはあの花のために⑦


『大事にして? そしていつか、あおいちゃんに好きな人ができたら、わたしに返して欲しいの』

『え? ……す、すきな、ひと? ………………はい』

『え? 好きな人いるの?』

『ひいのさん。みじゅかさん』


 そう言って嬉しそうに笑ってくれたけど、ヒイノはまたそれを葵に返す。


『ううん? 違う。そっちの好きじゃないの』

『……? すきって、いっぱいあるの……?』

『ええそう。たくさんあるの。でも、わたしが言う好きは、わたしがあの人に思っているものと同じもの。この人と、一生を添い遂げたいなと思う好きよ』


 ヒイノは、小さく笑いながら、でもどこか愛おしげに葵を見つめてくる。


『……わかんない……』

『きっとそのうちわかる。……どうする~? あおいちゃんもストーカーに遭っちゃうかもよ~?』



「(……うん。まあ現に遭ったけどね。ヒイノさん大正解)」



『すとーかーとは、いっしょにいたくないです』

『えー? でもでも、あの人みたいに、実は見えないところで守ってた~とかだったら、ちょっと格好よくない??』

『……ふつうにそばにいてくれた方がいいな』

『わかってないな~。見えないから心にグッとくるのよ~』



「(……ほんと、今思えば3歳ぐらいの子に、何言ってるんだって思うわ……)」


 でも、見えないからこそ格好いいのかと、そう思ったのは確かだ。



『ゆっくりでいいわ? いつか絶対にわかるもの。……あーあ。いつ返ってくるかな~』

『(え。……か、かえしてほしいならかえす。けど……)』


 葵は首元……いや、胸のところで揺れるそれを、見つめていた。


『だからね? それまでずっと、大事に。壊さないように持っていて欲しいの』

『……なんで、ですか?』


 そう言うと、ヒイノは少しだけ悲しそうな顔をした。


『あおいちゃんのここが、強くなるように』


 そう言ってヒイノが触れたのは、葵の心。


『……ひいのさん。わたし、きょうきんついてなくて……』

『いや違うから、あおいちゃん……』


 つんつんと、葵の心をヒイノが指す。


『別に、二色の色が入ってるだけで、このネックレス自体が色が変わるわけじゃないんだけど。ちょっと、ガラスの少女に似てるかな? って思って』

『??』

『……あおいちゃん、時々暴れちゃうでしょう? 今はちょっと落ち着いたね』

『……ごめんなさい』

『え? ううん。責めてるわけじゃないわ? 寧ろ吐き出してくれて嬉しいもの。……それで、あおいちゃんには二つ、色があるのかな? って思って』

『……ふたつの、いろ……?』

『そう! それで、あおいちゃんにはこれを大事にしてもらいたいの。ものを大切にする。……できる?』

『……わたしはできる、けど……』


 そう言って葵は、もう一人の自分を思い出して俯いてしまう。


『大丈夫よ? もう一人の子にもちゃんと大事にしてって言うわ? あおいちゃんが大好きなわたしの大事なものだから、大事にしてね? って』

『……はい。だいじにする。こわしません。ちゃんと、ひいのさんにかえしますね?』


 小さく笑いながら言う葵を、ヒイノがぎゅっと抱き締めた。


『(……気休めにしかならないかもしれないわ。でも、ものを大切にしたら、投げることはなくなるかもしれない。……取り敢えず、少しずつ様子を見ていきましょう)』


 そうこうしていると、畑からミズカが帰ってきた。


『ただいま~。あおい? お前、花育ててみないか?』