すべてはあの花のために⑦


 それからミズカには、武道を一通り習いながら、野菜の作り方に愛情を入れると、一段と美味しくなるんだと教えてもらった。
 愛情がよくわからなかった葵だったけど、入れる時のミズカの顔が楽しそうな嬉しそうな顔だったので、葵もそんな顔をしながら魔法の呪文を唱えることにした。

 ヒイノは、学校で習うようなことはちょっとしか教えなくなった。その代わり歌やピアノ、少しだけ絵を教えてくれたり、昔話を読んでくれたり。そして、たくさんの感情を教えてくれました。


 そして葵が拾われて一年が経ち、二度目の秋を迎えようとしていた時――――。


『はい。これ、あおいちゃんに』


 そう言ってヒイノがくれたのは、ガラスのハートのネックレス。


『わたしが前読んであげたお話、覚えてる?』

『……? いっぱいあるから、わかりません』

『えー。絶対わかるわ? ガラスの少女。覚えてるでしょう?』

『あ。……はい。とっても、かわいそうな……』


 葵がそう言うと、ヒイノは小さく首を横に振る。


『あの話、あおいちゃんは悲しいって思っちゃったの?』

『え? ……だ、だって、いっしょに旅してた男の子たちが、かわいそう……』

『そっか。女の子視点で言ったわけじゃないのね』

『……?』

『確かに、悪戯な風さんのせいで、ガラスの女の子は壊れちゃったわ? 男の子たちも、寂しそうね』

『……はい。そうですね』

『でも、いつも一緒にいるわ』

『え?』

『お星様の川になって、いつでも彼らのそばにいてあげられるの』

『……でも、近くには、いないですよ』

『物理的な問題じゃないの。これは、気持ちの問題』


 ヒイノはそう言って葵の首に、ネックレスを掛けてやった。


『たとえ近くにいなくても。いつも、気持ちは一緒なの』

『……ん~……』

『わからない?』

『……わから、ないです』


 そんな葵に、ヒイノはすごくやさしい笑みを浮かべた。


『一番わかりやすく言うと、人って死んじゃうじゃない?』

『……!! い、いや』

『大丈夫よ? 落ち着いて?』


 葵を抱き締め、ヒイノは一定のリズムでとんとんと撫でる。


『人って死んじゃったら、お星様になるの』

『え? ……て、てんせいのじゅんびとか、そんなのをするんじゃ……』

『よく知ってるわね。でも、それまでずっとお星様になってるの』

『……?』

『死んでしまって、悲しんでる人たちがいる。でも、その人たちの悲しみが落ち着くまでは、お空で見守ってるのよ?』

『……そう、なの……?』

『そう。……だから、遠くに行っちゃっても気持ちはずっと一緒にいるよって。このお話はそういってるの』

『……そっか。とってもきれいなおはなし』

『こういうちょっと悲しいお話はね、深く深く考えるといいお話だったりするの。だからわたしはお話を読むのも好きだし、自分で作ったりするのも好きなのよ』

『……はい! とってもすてき、ですね!』


 葵が頷くと、大きくネックレスが揺れる。


『ひいのさん? これは?』

『はい! 今からあおいちゃんに、任務を与えます! にんにんっ』

『に、にんにん??』


 何故かとっても楽しそうだった。そのままヒイノは高いテンションで続ける。


『このネックレスは、わたしの大事~なものです! これを、ガラスの少女のように壊してしまわないようにするには、どうしたらいいでしょうっ!』

『え? え?? こ、こわさない……。だ、だいじに、する……?』

『正解! ということで、あおいちゃんにこれを渡しておくわね』

『え? と、ということで?』


 全く話が読めない。でも、やっぱりヒイノは楽しそうだ。