すべてはあの花のために⑦


『……わたし。おぼえてるんです。いままであったこと、ぜんぶ』

『『ぜんぶ?』』

『うまれてからいままで。ずっと。……あたまも。いろんなこと、しってます。いろんなことにも。気づきます……』

『すごいわね!』

『流石はオレの娘!』

『……おとうさんとおかあさんのなか、わるくなったの。わたしのせいなんです……』

『あおいちゃん……』

『どうしてそう思うんだ?』

『いっていいことと、いっちゃだめなこと、わからなくって。……おとうさん。おかあさんのおともだちとなかよくしてました。おかあさん。よる、おそとにでておさけのんで。たのしそうでした』

『『…………』』

『それ、いったらだめだったんです。いったからなか、わるくなって。……わたしの。せいで……っ』

『……あおいちゃんは、何も悪くないわ』

『ああ、そうだな』

『……っ、おしごとのじゃま、しないからって。おはなしもしないからって。わらわないからって。……そういっても。だめだったんです。わたしは。……うみに。すてられたんです……』


 そう言うと、葵のことを二人が抱き締めてくれる。


『あおいちゃんは悪くないわ! わたしがご両親に直談判しに行ってくる! あおいちゃんはわたしたちの子供だからって!』

『ついでにぶっ飛ばしてくる! 安心しろ!』

『……もう、いいです』


 俯いている葵を、覗き込むように二人は心配する。


『……いま。あったかいから。いいです』

『……あおいちゃん』

『あおい』


 二人にまた、やさしく抱き締められた。


『……みょうじ。わすれてないです。だから。でも。いえない』

『うん。思い出すからでしょう?』

『そんな家忘れらればいいのにな。お前は花咲だ』


 そう言ってくれる二人に、葵は首を振る。


『わたし。は。……あおいです。……こう。かくんです……』


 ヒイノの手の平に、自分の漢字を書く。


『……みょうじ。おもいだすから。いえないんじゃないんです』


 葵は、言って嫌われたら嫌だった。こんな感情、よくわからなかった。


『わたしの。……『かおをだしたおひさま』。『みょうじ』。とられてしまったんです』

『取られた? 誰に?』

『わたしのこと。……たすけてくれた『わたし』です』

『あおい……』

『あの、わたし。いやです。ひいのさん。くるしいから。……いろんなの。なげちゃう。こわい、です』

『(……よく、わからないけど……)』

『(……オレらにできることは……)』


 二人は目を合わせて、葵に笑いかけてやる。


『だったらわたしたちが、なんとかしてあげるわ!』

『あおいが怖いと思ってる『あおい』を、やっつけてやろう!』


 そんなこと、言ってくれると思わなかった。なんだか、嬉しかった。


『あおいちゃん? 一緒に治してあげるからね』

『ひいの、さん……』

『オレらにできないことなんてないんだからな! 安心しておけよ!』

『……。すとーかーさん……』

『いや、いいとこでそれ持ってくる??』

『ははっ。……はい。みじゅかさん!』


 葵が笑いながらそう言うと、二人は嬉しそうに笑った。