そう言っているヒイノの首に、葵の手が掛かる。
『えっ。……っ、あ、あおい、ちゃん……』
『……やめ。て』
『……っ、どこから。こんな力……っ』
『どうして。……わたしを。うんだの』
『……っ。あおい、ちゃん。また。泣いて……』
『すてるぐらいなら。……うまないで』
ぐぐぐ……と、葵の指に力が加わるけど、ヒイノも負けてはいないので、力を振り絞って拘束をなんとか解く。
『けほっ。けほ。……あおい、ちゃん……?』
『…………』
葵はまた、ぼうっとしていた。焦点が合っていない。
ヒイノは葵の体を抱き締め、そのまま摩ってあげた。
『あおいちゃん? そういうのも、言ってくれたらいいのよ』
『…………』
『わたしが聞いてあげるわ? もちろんあの人も。……あ。でもあの人バカだから、『だからどうしたー!』とか言いそうだけどね?』
『……ばか』
『(あら。それに反応はするのね)……一気に全部言おうとしなくていいの。すこーしずつ。あおいちゃんのこと教えて?』
『……わたしの。こと……』
そうこうしていると、玄関が開いた音がした。ミズカが帰ってきたようだ。
『ただいま~。ん? どうしたんだー?』
『……ばか』
『え!? あおい! おかえりだろ?!』
『……ひいのさん……』
『しょうがないわ。ばかだから』
『ええー!? ひのちゃん!?』
葵はヒイノにしがみついていた。その様子に、おかしさを覚えたミズカは、二人を抱き締めるように座った。
『ひいのさん。ごめんなさい……』
『……あおいちゃん。あなた……』
『ん? どうしたんだ?』
葵はそっと、ヒイノの首元に手を当てる。
『いたかった……? くるしかったですね。……ごめんなさい』
『……おぼえて。いるのね……』
『……何があった』
ミズカはヒイノの首元に残る、小さな赤い痕を眉間に皺を寄せながら見つめていた。
『……ごめん。なさい。……きもち。わるくて。……っ』
『何言ってるの! ……言ったでしょ? いつでも言って頂戴って。あおいちゃんのストレス発散のお手伝いを、二人でしてあげるからね?』
『……ああ、もちろんだ! あれだぞ? 一番のストレス発散は運動だ! いつでもオレが付き合ってやろう!』
状況が飲み込めたらしいミズカも、そう言ってきてくれる。
『……すこし。おはなし。します……』
『無理しないで?』
『ああ、これからは一緒に住むんだからな。焦らずにゆっくりいこう』
そう言って二人が葵の頭を撫でてくれる。葵は、ゆっくりとだけど少しずつ、話してあげた。



