すべてはあの花のために⑦


 そう言っているヒイノの首に、葵の手が掛かる。


『えっ。……っ、あ、あおい、ちゃん……』

『……やめ。て』

『……っ、どこから。こんな力……っ』

『どうして。……わたしを。うんだの』

『……っ。あおい、ちゃん。また。泣いて……』

『すてるぐらいなら。……うまないで』


 ぐぐぐ……と、葵の指に力が加わるけど、ヒイノも負けてはいないので、力を振り絞って拘束をなんとか解く。


『けほっ。けほ。……あおい、ちゃん……?』

『…………』


 葵はまた、ぼうっとしていた。焦点が合っていない。
 ヒイノは葵の体を抱き締め、そのまま摩ってあげた。


『あおいちゃん? そういうのも、言ってくれたらいいのよ』

『…………』

『わたしが聞いてあげるわ? もちろんあの人も。……あ。でもあの人バカだから、『だからどうしたー!』とか言いそうだけどね?』

『……ばか』

『(あら。それに反応はするのね)……一気に全部言おうとしなくていいの。すこーしずつ。あおいちゃんのこと教えて?』

『……わたしの。こと……』


 そうこうしていると、玄関が開いた音がした。ミズカが帰ってきたようだ。


『ただいま~。ん? どうしたんだー?』

『……ばか』

『え!? あおい! おかえりだろ?!』

『……ひいのさん……』

『しょうがないわ。ばかだから』

『ええー!? ひのちゃん!?』


 葵はヒイノにしがみついていた。その様子に、おかしさを覚えたミズカは、二人を抱き締めるように座った。


『ひいのさん。ごめんなさい……』

『……あおいちゃん。あなた……』

『ん? どうしたんだ?』


 葵はそっと、ヒイノの首元に手を当てる。


『いたかった……? くるしかったですね。……ごめんなさい』

『……おぼえて。いるのね……』

『……何があった』


 ミズカはヒイノの首元に残る、小さな赤い痕を眉間に皺を寄せながら見つめていた。


『……ごめん。なさい。……きもち。わるくて。……っ』

『何言ってるの! ……言ったでしょ? いつでも言って頂戴って。あおいちゃんのストレス発散のお手伝いを、二人でしてあげるからね?』

『……ああ、もちろんだ! あれだぞ? 一番のストレス発散は運動だ! いつでもオレが付き合ってやろう!』


 状況が飲み込めたらしいミズカも、そう言ってきてくれる。


『……すこし。おはなし。します……』

『無理しないで?』

『ああ、これからは一緒に住むんだからな。焦らずにゆっくりいこう』


 そう言って二人が葵の頭を撫でてくれる。葵は、ゆっくりとだけど少しずつ、話してあげた。