『みじゅかさん! これはどこにもっていったらいいですか!』
『おー、それはー、そこら辺置いておいてくれ~』
最初の頃に比べサ行は言えるようになったけど、何故かザ行が言えなくてしばらくは『じゅ』と言ってた。
花咲家に拾われた葵は、平日の夕方まではミズカと一緒に畑仕事を手伝っていた。小さな葵には運べるものなんてそんなになかったのだけれど、何故かどんどん重いものまで運べるようになった。ミズカは驚いたけど、『助かるな~』と喜んでくれた。
そんなミズカのためになるならと、葵は一生懸命お手伝いした。
お昼ご飯は、ヒイノが作ってくれた美味しいお弁当を二人で美味しく、お日様の下で食べる。
『『おおきくなーれ! おいしくなーれ!』』
魔法の呪文なんだと、ミズカに教えてもらった。
畑から出る時、必ず二人でそう言ってからお家に帰っていた。畑仕事が早めに終わったら、夕方までミズカが葵を、強くしてくれた。
着々とミズカの教えを吸収していく葵を見て、嬉しそうにミズカはいつもたくさんのことを教えてくれた。
夕方になるとヒイノが学校から帰ってきてくれて、とっても美味しいご飯を作ってくれた。
ミズカが学校で教えないといけない日は夜まで帰ってこないけれど、代わりにヒイノがたくさん教えてくれた。
でも、ヒイノが教えようとしたことは、大抵葵はもう知っていた。
『……ご、ごめんなさい。ひいのさん……』
『え? 何が?』
一生懸命教えてくれようとしているのに、『それは……』と『あ。それなら……』と葵は答えるので、申し訳なかった。
『し。……しってて』
『ええ? なんでそれでごめんなの?』
そう言ってヒイノは葵の頭をよしよし撫でる。
『(あ。……このて。きもちがいい。……あったかい)』
『あおいちゃんの知らないことを、わたしが探ってるの』
『え? さ、さぐる……?』
『そう。……それで、知ってたら『くそ!』ってなるけど、知らなかったら『よっしゃ!』ってなるの』
『く、くそ……? よ、よっしゃ……?』
聞いたことない言葉だった。なんだろう。
『汚い言葉だけどね? ついぽろっと出ちゃうのよね~』
『お、おしえて……?』
『え?』
『知らない。……つい? わたし。出ないから……』
『……人間ってね、結構本能で生きてるものなのよ』
『……?』
『だから、悔しい時は悔しくて、嬉しい時は嬉しいの。言葉もそう。つい本能的に出ちゃうのよ。汚くってもそれが人間の本能。お外に出たら、そんな言葉使ってたらみんなに嫌がれちゃう時もあるけど、お家の中だからストレス発散しなきゃね』
『……すと、れす……』
ヒイノはそう言うと、葵のことをぎゅーっと抱き締めてきた。
『あおいちゃんもね? 言っていいのよ? だってここがあなたのお家だもの』
『……? でも、言ってますよ……? くやしいなって、みじゅかさんに負けた時とか。おいしいお弁当、いつもありがとう。ひいのさん』
『あー! なんていい子なの!!』
『ぐへ。……く、くるしい……』
思い切り抱き締められて、潰れるかと思った。
『……でもね? あおいちゃん。嫌なこと、たくさんあったんでしょう?』
『え?』
そんなことはない。だって、二人といると楽しいから。
『……嫌だと思うけど、前のお家。思い出すのも嫌でしょう?』
『…………』
『そういうの。言葉にしてくれたらいいなって思うの』
『…………』
『だってここはあなたのお家。ストレス発散してくれて全然いいんだから――』



