「まず、あいつとアキくんは婚約者候補だということ。あいつはずっと前からアキくんが好きで、家にお願いをした。でもあいつは、アキくんを『友達として好きだ』って言ってました。あとはいろいろ聞きましたけど、あいつの口から聞いた方がいいと思うから、これ以上は言いません」
みんなが他に何を聞いたんだろうと顔を上げるが、ヒナタは申し訳なさそうに首を振るだけ。
「あいつ、話するの結構しんどそうだったから、オレの口からほいほい勝手に言っちゃいけないと思うんだ」
「うん。そうしておいて? じゃないと葵は」
「嫌うわけ、ないのに」
「日向くん……」
ヒナタは、つらそうに、苦しそうに……悔しそうに、顔を歪めていた。
でも、それもすぐに元に戻る。
「ま、あいつから聞かないと意味ないんで」
「(……彼は、葵から何を聞いたんだ?)」
あとで聞いてみるかと思ったが、どうやら彼にはまだ続きがあるようだった。
「最後です。これ以上は話しませんけど」
そう言ってヒナタが鞄から取り出したのは、例の【カード】だった。
みんなは同じものをもらっていたので目を見開いていたが、それを知らないシントとトーマは首を傾げている。
「これは、あいつがそのアキくんとの結婚のことを、わかりやすく言えないからと難しく伝えてきたものです」
「……そう、なんだね」
いつの間にか葵が前進していることを知り、シントは嬉しさで頬が緩む。
「トーマは? これもらった?」
「もらってはないけど、『今度難しく伝えますね』とは言われたから、それをくれる予定だったのかも知れない」
「だったらこれあげる」
「え? いいの?」
「うん。別に、写真撮っとけばいいし」
ヒナタはカードをスマホで撮影して、トーマにそのカード渡す。
「なんであいつがアキくんが好きなのか。それに書いてあるからって言ってた」
「え? これに?」
トーマは眉間に皺を寄せながら、そのカードを眺めていた。その横から、シントはそっと覗き込む。
その中身を見て、シントは慌ててヒナタの方へ視線を向けた。
「……っこ、これって……」
言葉が、上手く出ない。
なんとか紡いだそんな言葉に、ヒナタは小さく笑ったが、一瞬泣き出しそうな表情にも見えた。
「はい。みんな、ちゃんと持ってます」
やわらかい表情に。声に。言葉に。
「え。シン兄……? だいじょ」
「あおいがあ~……。あおいがっ。…………ああー……! 葵に会いたいっ!!!!」
シントは壊れた。そして泣いた。
「ちょ、信人さん!? 抱きついてこないでくださいよっ!」
トーマが嫌そうにシントの顔を肘でぐりぐりとするも。
「あ~お~い~……」
「だめだこりゃ」
誰かのそんなつぶやきに、みんなはしばらくそのカードの暗号を解くのに専念することに。
あの二人を止められるのは、もはや葵かキサだけだったが、キサはもう面倒くさくなったんだろう。どこから取り出したのか、耳栓までしてカードの解読をしていた。



