すべてはあの花のために⑦


「まず、あいつとアキくんは婚約者候補だということ。あいつはずっと前からアキくんが好きで、家にお願いをした。でもあいつは、アキくんを『友達として好きだ』って言ってました。あとはいろいろ聞きましたけど、あいつの口から聞いた方がいいと思うから、これ以上は言いません」


 みんなが他に何を聞いたんだろうと顔を上げるが、ヒナタは申し訳なさそうに首を振るだけ。


「あいつ、話するの結構しんどそうだったから、オレの口からほいほい勝手に言っちゃいけないと思うんだ」

「うん。そうしておいて? じゃないと葵は」

「嫌うわけ、ないのに」

「日向くん……」


 ヒナタは、つらそうに、苦しそうに……悔しそうに、顔を歪めていた。
 でも、それもすぐに元に戻る。


「ま、あいつから聞かないと意味ないんで」

「(……彼は、葵から何を聞いたんだ?)」


 あとで聞いてみるかと思ったが、どうやら彼にはまだ続きがあるようだった。


「最後です。これ以上は話しませんけど」


 そう言ってヒナタが鞄から取り出したのは、例の【カード】だった。
 みんなは同じものをもらっていたので目を見開いていたが、それを知らないシントとトーマは首を傾げている。


「これは、あいつがそのアキくんとの結婚のことを、わかりやすく言えないからと難しく伝えてきたものです」

「……そう、なんだね」


 いつの間にか葵が前進していることを知り、シントは嬉しさで頬が緩む。


「トーマは? これもらった?」

「もらってはないけど、『今度難しく伝えますね』とは言われたから、それをくれる予定だったのかも知れない」

「だったらこれあげる」

「え? いいの?」

「うん。別に、写真撮っとけばいいし」


 ヒナタはカードをスマホで撮影して、トーマにそのカード渡す。


「なんであいつがアキくんが好きなのか。それに書いてあるからって言ってた」

「え? これに?」


 トーマは眉間に皺を寄せながら、そのカードを眺めていた。その横から、シントはそっと覗き込む。
 その中身を見て、シントは慌ててヒナタの方へ視線を向けた。


「……っこ、これって……」


 言葉が、上手く出ない。
 なんとか紡いだそんな言葉に、ヒナタは小さく笑ったが、一瞬泣き出しそうな表情にも見えた。


「はい。みんな、ちゃんと持ってます」


 やわらかい表情に。声に。言葉に。


「え。シン兄……? だいじょ」

「あおいがあ~……。あおいがっ。…………ああー……! 葵に会いたいっ!!!!」


 シントは壊れた。そして泣いた。


「ちょ、信人さん!? 抱きついてこないでくださいよっ!」


 トーマが嫌そうにシントの顔を肘でぐりぐりとするも。


「あ~お~い~……」

「だめだこりゃ」


 誰かのそんなつぶやきに、みんなはしばらくそのカードの暗号を解くのに専念することに。
 あの二人を止められるのは、もはや葵かキサだけだったが、キサはもう面倒くさくなったんだろう。どこから取り出したのか、耳栓までしてカードの解読をしていた。