すべてはあの花のために⑦


「(そのあとすぐ掛かり付けのお医者様が来てくれて、薬を飲んで落ち着いたんだよね)」



『大丈夫かいの? わかるかい? 落ち着いたかのう』

『……はい。ありがとう、ございます』


 お医者様は、また何かあったら言うようにと、二人に声を掛けて帰って行った。


『何があったの? もしかして、この人におしりだけじゃなくて……』

『いやいや! ひのちゃん! もうやめて!! そんなことしてないよオレ!!』

『……おっぱい』

『成敗!!』

『ぐは! え、うそ。マジで触った?!』

『おおきい……』

『あら。ありがとう』

『殴られ損……』


 男の人が、がっくりと肩を落としている。


『あなた、お家はどこかしら? もしよかったら、送っていってあげるわ』

『……おうちには、かえれません』

『ん? どうした? 迷子か?』

『……あなた! 海で拾って迷子はないでしょう……!?』

『……そ、そうか……?』

『わたしは、おとうさんとおかあさんにすてられたので』

『『…………』』

『たすけていただいて、ありがとうございました』


 葵はベッドから降りて、出て行こうとする。


『……どこに、行くの?』

『……どこ、でしょう……』

『行く当てはあるのか』

『……こんな、きもちがわるいわたしを、そだててくれるひとなんていません』

『『……気持ちが悪い……?』』


 でも行く当てもないので、葵は扉の前で止まったまま動かない。


『……あのね? もし、あなたがよかったらでいいんだけど』

『……?』

『オレたちと一緒に暮らさないか?』

『……すとーかーは、おことわりです』

『大丈夫! 何かあったらわたしが守ってあげるわ! この人から!』

『え。ひのちゃん? なんでそんな、一応あなたの旦那ですけど……』

『え。かがいしゃとひがいしゃが、けっこんしたの……?』


 そんなことを言う葵に、二人は目を見開く。


『……? なにか、おかしかったですか?』

『いや、お嬢ちゃんは難しい言葉を知ってるだなと思って』

『……!!』


 慌てて両手で口を塞ぐが……もう遅い。


『そうなの! 聞いてくれる? この人ったら、わたしのことずーっとつけ回して、無理矢理結婚させられたの! 最低でしょ?』

『え。さ、さいてい……』

『がーん』


 わざわざ効果音を口に出す意味はわからなかったけれど。


『……な。んで……』

『ん?』

『どうした?』

『……きもちわるく、ないですか。わたし……』

『え? どこが?』

『とっても可愛いぞ? オレが気持ち悪いと思うのはなまこだけだ!』


 なまこ……って、なんだろう。初めて聞いた。


『でも、むずかしいことば。しってて……』

『すごいじゃない! 本当にあなたは賢いのね』


 よしよしと、嬉しそうに顔を綻ばせて、女の人が頭を撫でてくる。


『オレより知ってるんじゃ』

『そうね。そうだと思うわ』

『え。最後まで言わせてくれても……ていうか真顔やめて』


 そんな二人のやりとりが面白くって、ぷっと笑いが漏れる。


『……あのね? さっきも言ったんだけど、よかったらここで一緒に暮らさない?』

『でも、ごめいわくです。あ。ごめいわくを。おかけします……?』

『そう言うってことは、一緒に暮らすってことだな!』

『え。い、いえ。そういういみで言ったんじゃ……』


 言い方を間違えてしまい、あわあわと慌てる。