「(そのあとすぐ掛かり付けのお医者様が来てくれて、薬を飲んで落ち着いたんだよね)」
『大丈夫かいの? わかるかい? 落ち着いたかのう』
『……はい。ありがとう、ございます』
お医者様は、また何かあったら言うようにと、二人に声を掛けて帰って行った。
『何があったの? もしかして、この人におしりだけじゃなくて……』
『いやいや! ひのちゃん! もうやめて!! そんなことしてないよオレ!!』
『……おっぱい』
『成敗!!』
『ぐは! え、うそ。マジで触った?!』
『おおきい……』
『あら。ありがとう』
『殴られ損……』
男の人が、がっくりと肩を落としている。
『あなた、お家はどこかしら? もしよかったら、送っていってあげるわ』
『……おうちには、かえれません』
『ん? どうした? 迷子か?』
『……あなた! 海で拾って迷子はないでしょう……!?』
『……そ、そうか……?』
『わたしは、おとうさんとおかあさんにすてられたので』
『『…………』』
『たすけていただいて、ありがとうございました』
葵はベッドから降りて、出て行こうとする。
『……どこに、行くの?』
『……どこ、でしょう……』
『行く当てはあるのか』
『……こんな、きもちがわるいわたしを、そだててくれるひとなんていません』
『『……気持ちが悪い……?』』
でも行く当てもないので、葵は扉の前で止まったまま動かない。
『……あのね? もし、あなたがよかったらでいいんだけど』
『……?』
『オレたちと一緒に暮らさないか?』
『……すとーかーは、おことわりです』
『大丈夫! 何かあったらわたしが守ってあげるわ! この人から!』
『え。ひのちゃん? なんでそんな、一応あなたの旦那ですけど……』
『え。かがいしゃとひがいしゃが、けっこんしたの……?』
そんなことを言う葵に、二人は目を見開く。
『……? なにか、おかしかったですか?』
『いや、お嬢ちゃんは難しい言葉を知ってるだなと思って』
『……!!』
慌てて両手で口を塞ぐが……もう遅い。
『そうなの! 聞いてくれる? この人ったら、わたしのことずーっとつけ回して、無理矢理結婚させられたの! 最低でしょ?』
『え。さ、さいてい……』
『がーん』
わざわざ効果音を口に出す意味はわからなかったけれど。
『……な。んで……』
『ん?』
『どうした?』
『……きもちわるく、ないですか。わたし……』
『え? どこが?』
『とっても可愛いぞ? オレが気持ち悪いと思うのはなまこだけだ!』
なまこ……って、なんだろう。初めて聞いた。
『でも、むずかしいことば。しってて……』
『すごいじゃない! 本当にあなたは賢いのね』
よしよしと、嬉しそうに顔を綻ばせて、女の人が頭を撫でてくる。
『オレより知ってるんじゃ』
『そうね。そうだと思うわ』
『え。最後まで言わせてくれても……ていうか真顔やめて』
そんな二人のやりとりが面白くって、ぷっと笑いが漏れる。
『……あのね? さっきも言ったんだけど、よかったらここで一緒に暮らさない?』
『でも、ごめいわくです。あ。ごめいわくを。おかけします……?』
『そう言うってことは、一緒に暮らすってことだな!』
『え。い、いえ。そういういみで言ったんじゃ……』
言い方を間違えてしまい、あわあわと慌てる。



