すべてはあの花のために⑦


「……。こたえて。あげられなくて。ごめん」

「え……?」


 葵はもう、目を閉じた。聞こえるのは消え入りそうな声だけ。


「……わたしじゃ。きみを。……しあわせには。でき、ない。から……」

「あおいさん……」


 瞳を閉じてしまった葵の指先にもう一度、そして口の端にももう一度音を立てて、レンはキスを落とした。


「……ちゅーは。もう。だめ」

「……あおい、さん……」

「もう。……ね。しないで。……ね。やくそく……」


 それを最後に、葵は小さく寝息を立て始めた。



「眠った、か。…………ははっ。はい。大丈夫ですよ。もうしません。約束です」


 レンは腕時計で時間を確かめる。


「時間は8時過ぎ……」


 繋いでいた手を名残惜しそうに見つめながら、レンは葵の手をそっと布団の中に返す。

 ……カチ。……カチ。部屋の時計が、8時半にもならなかった。
 ベッドの脇の壁に、もたれ掛かるようにレンは立っていると、ベッドの上の人影がむっくりと起き上がる。


「(……20分も寝られなかったか)」


 起き上がった『葵』に、レンは声を掛ける。


「おはようございます、『葵』さん。先に今日はなんとしてもご飯を召し上がっていただきますよ。そのあとは、――お仕事をお願いします」