「……。こたえて。あげられなくて。ごめん」
「え……?」
葵はもう、目を閉じた。聞こえるのは消え入りそうな声だけ。
「……わたしじゃ。きみを。……しあわせには。でき、ない。から……」
「あおいさん……」
瞳を閉じてしまった葵の指先にもう一度、そして口の端にももう一度音を立てて、レンはキスを落とした。
「……ちゅーは。もう。だめ」
「……あおい、さん……」
「もう。……ね。しないで。……ね。やくそく……」
それを最後に、葵は小さく寝息を立て始めた。
「眠った、か。…………ははっ。はい。大丈夫ですよ。もうしません。約束です」
レンは腕時計で時間を確かめる。
「時間は8時過ぎ……」
繋いでいた手を名残惜しそうに見つめながら、レンは葵の手をそっと布団の中に返す。
……カチ。……カチ。部屋の時計が、8時半にもならなかった。
ベッドの脇の壁に、もたれ掛かるようにレンは立っていると、ベッドの上の人影がむっくりと起き上がる。
「(……20分も寝られなかったか)」
起き上がった『葵』に、レンは声を掛ける。
「おはようございます、『葵』さん。先に今日はなんとしてもご飯を召し上がっていただきますよ。そのあとは、――お仕事をお願いします」



