彼がやっと離してくれた時、銀色の糸が名残惜しそうにぷつんと切れる。
「はあ。はあ。……な。なんで。……んっ、ひゃっ……」
口づけはやめたものの、耳を羞恥に苛めてくる。
「い。……や、やめっ。れ、れんくん……!」
力が出ないんじゃ、叫ぶしかないけど、そんなことをしてもやめてくれるはずもなく。
彼は耳にキスを落としたり舐めてきたり、甘噛みをしてきたりする間に、愛おしげに葵の名を呼んでくる。
「あおいさん。……あおい、さん……」
「……っ。やめ。…………っ。……やめなさいって、言ってるでしょうがあー!!」
「ぐふっ!!」
流石に手が服の裾から入ってこようとしていたので、渾身の力を振り絞って、彼を思い切り吹き飛ばした。でもその勢いで、薬が効いてしまっている葵は、ふらっと立ち眩み。
「……寝る」
「いたた……。え。あおいさん?」
葵はベッドになんとか這い上がって、布団を掛けた。
「眠いから、寝るから」
「…………」
「絶対に起こしてね。レンくん」
「…………」
「……絶対に襲わないでね」
「はは。……はい。もうしません。起きてからします」
「……?! え。ちょ、ちょっと。どうしちゃったの!? ビックリなんだけど……!」
「最近仕事ばっかりで欲求溜まってー」
「え? れ、れんくん?? キャラ! キャラ守って……!?」
「あなたなんかに手出すとか、どうかしてました。ほら、さっさと寝てください。もう一生襲うことなんてないので」
「(……何故だ。安心していいはずなのに、この言われように腹が立つのは……)」
葵はレンを睨むように見上げると、なんだか嬉しそうに葵のことを脇腹を摩りながら見下ろしていた。
「(……ど、ドM……? カナデくんと一緒だったのか……)」
そんなことを思っていたら、ベッドの横に座って、布団の上から一定のリズムでとんとんと叩いてくれる。
「大丈夫。信じてください。もう襲いませんし、ちゃんと起こします」
「…………」
「だったら、起こす時に口づけでもしましょうか。お姫様を起こすのは、王子様の口づけって相場が決まってますし」
「……! え、遠慮します……!」
「はいはい。早く寝てください。……薬飲んだのに、何ですぐ寝ないんですか。おかげで暴走しちゃったじゃないですか」
「え? なに? れんくん??」
「早く寝ないと仕事ができないので寝てください」
「……うん。ありがとう」
「いいえ。これも仕事なので」
「……お水。いっぱい飲んじゃった……」
「……っ! そ、そういうことは言わなくて」
「収まるかな。……寝てる間に吐くことってあるのかな」
「……吐いたら吐いた時です。私が着替えさせるので、裸見られたくなかったら寝ながら我慢してください」
「お! わかった!」
「いや、そんな器用なことまでできるんですかあなた……」
そうこうしていると、限界なのかうつらうつらしてきた。
「……おやすみなさい。あおいさん」
「……れんくん」
レンは、布団から出ている葵の冷たい手を、ぎゅっと握ってやる。
「……。なんで。やさしくしてくれるの……」
「本当にやさしかったら監視なんてしてませんよ」
「ううん。……れんくん。やさしいもん……」
「……一番やさしいのは、あなたですよ」
レンは、握った冷たい指先に口づけを落とす。



