すべてはあの花のために⑦


 驚いて口を開けた瞬間、薬を押し込まれる。慌てて出そうとするけれど、レンが両手で口を塞いだ。


「っ、飲んで。あおいさん」

「っ、んんっ(離して……っ)」


 押さえつけられている手を除けようと、葵はレンの手首を掴むけれど、彼の手は僅かに震えていた。


「飲んで。お願いだから……」

「……んんっ?(れん、くん……?)」

「信じて。絶対に起こします。オムライス食べてください。絶対。あとは……なんですか? ああ、連れて行ってあげます。絶対。帰ってこなきゃいけないけど。……でも今は、今だけはっ! あなたの望みをっ、オレ(、、)が叶えてあげたいんです……!」

「……!! れ、れんく――んぅっ……」


 レンは、ペットボトルの水を口に含み、葵のそれに押し当ててくる。しかし、口を開けないせいで、水は葵の口の中に入らず、顎へ首筋へと流れていくばかり。
 レンは、悔しそうな表情を浮かべたあと、一度「すみません」と断りを入れ、葵の顎を思い切り掴んでこじ開けた。


「……!! んっ。んぅっ……」


 もう一度口に水を含んだレンは、葵の開いた口へ、自分のそれを押しつけた。こくこくと、葵が嚥下をする音が聞こえてくる。


「……っ、はあ。はあ……」

「……のみ、ました……?」


 レンは、返事も待たずにもう一度ペットボトルの中身を口に含む。


「……っ、え。れんく……。もう飲ん――……んっ」


 葵が言い切る前に、また口を塞がれる。
 どれぐらいそうされただろう。レンは、ペットボトルの水がなくなるまで、葵に口移しで、水を飲ませた。


「……っ。はあ。はあ。……っ。はあ……」

「……あおいさん」

「え。……っん……!」


 もう水なんてないのに。レンは、自分のそれで、葵の唇を塞いだ。
 押し返す力はない。息だって上手くつけなくて酸欠で。薬だって。効いてきている。それでもと、頑張って押し返そうとしても、葵の手はやさしく彼に絡め取られ、後ろのベッドへ縫い付けられた。

 何度も角度を変えられて、葵の舌まで絡め取って、奥まで深く、繋がろうとしてくる。苦しくて。目の前が、涙で見えなくなる。
 嫌われているはずなのに。殺したくてしょうがないはずなのに。彼の口づけから伝わってくるのは、『愛おしい気持ち』と『ごめんなさい』。

 どうして、彼がそんな気持ちでいるのか、わからなかった。間違っているかもしれない。そんな気がするだけだから。