「……。れんくん。わたし。しあわせ。だったよ……?」
「…………」
「こんなこと。……花咲を出てから訪れるなんて。思ってもみなかった。……たくさんの人に。愛してもらった。……もう。十分すぎるよ……」
「……あおいさん」
「わたしがしてきたことを。……わたしのことを知らなかったとはいえ。みんなと。お友達に。……なれた」
「っ、あおいさん」
「あ。もちろんれんくんもね? ……見ていてくれて。ありがと。わたしのこと」
「……っ、あおい、さん……」
「もう一度、会いたいな。みんなに。皆さんに。……ミズカさんにも。ヒイノさんにも……」
「……、あおい、さん」
「今まで、ありがとうって。ちゃんと、言いたかったな……」
「…………」
「……しあわせだった、はずなのにね……」
「……?」
「……。枯れたく、ないの……」
「…………」
「……。消えたく。……ない……」
「……っ」
「どうやったらいいのかな。誰か。時間止めてくれないかな。……あ。そしたらちゃんと今までお世話になった人にお礼が言えるかな……」
「……もう。わかりましたから」
「お祈りとか、してみる? あ。それこそ願いを叶えてもらおっか」
「わかりました。あおいさん」
「……。い。いや。だ。……っ。いやだ。いやだ!! ……怖い。怖いよ。れんくん……!」
「あおいさん……」
「いやだよっ!! まだ、みんなといたい!! 話したい! いろんなとこ行きたい!! ……っ、会いたいよ……。……っ。ぅ……」
ベッドからずれ落ちて、レンにしがみつくように葵は涙を流す。
「……醜い、ですね」
「ご、……ごめんな。さ……っ」
そう言いながらも、レンは葵の頭を、背中を撫でてくれていた。
「……いいんじゃないですか? 言いたいこと、言ったって」
「……。え……?」
「抱えて無理されても困ります。吐き出せる時に吐けばいいんじゃないですか? 別に、私に吐かなくてもいいです。人に言えないこと、言いたくないことだってあるでしょう。今まで言いたくなくて、たくさん抱え込んできたんです。言葉にしたら、少しは気持ちが楽になりますよ」
「……やっぱり、れんくんはやさしいですね」
へにゃっと、葵は涙を流しながらレンに笑いかける。
「……別に。抱え込んで逃げられても困りますし。体調が悪くなられると、後々自分の身が危なくなるからです」
「そっかそっか。……監視がれんくんで。よかったです」
「は?」
「たとえれんくんにはお仕事でも。……今。一人になりたくなくて。……君で。よかった……」
「ありがと……」と。葵は泣きながら、でも笑いながら。レンに小さく感謝を告げた。
「――――」
「……? あ。れ? れ、れんくん……?」
どうしたのか、レンが固まってしまった。
「……あおいさん。最期の晩餐がオムライスでもいいですか」
「……? うん。いいよ……?」
「たくさん練習しておきます。美味しいの、作れるようになっておきます」
「……? あり。がと……?」
「だから、今日は水で我慢してください」
「……お、お水……?」
「いきなり胃に入れるとビックリしてリアルに吐いてしまうかもしれないので。……流石に、作ったものを吐かれては気分が悪いですし」
「そ。そうだね……?」
「もう一人はどうでもいいので、思い切り口の中にぶっ込んでおきます」
「え。……え? れ、れんくん。……だよね?」
彼ってそんな話し方でしたっけ?
「(なんか、ネジぶっ飛んでません?)」
「……ぶっ飛ばしたのはあなたです」
「……え?」
レンは一度葵から離れ、何かを取りに行って、すぐに戻ってくる。
「……本音、言えるじゃないですか」
「……! ……れんくん」
またレンは葵の前に、覗き込むように座った。
「幸せだとか、なんだとかで終わってたら、起こさなかったかもしれませんね」
「え……」
「……本音が、聞けてよかった」
「……れ。れんくん……」
息が多めのその声には、何故か嬉しさが滲み出ていた。



