「取り敢えずご飯にしますか? それとも寝ますか?」
「あれだね! 新婚さんみた」
「どっちにするんですか?」
「え、えっと。……ご、ご飯で……」
あれ、彼ってこんな感じだったっけ。
「はあ。……わかりました。まあせめて『あなたの時だけ』でも食べてください。もう一人の方は、全然ご飯食べてくれそうにないので」
「そっか。仕事、してるんだね」
「忙しいからっていうのもありますが、あの人の場合、何故かカル〇スソーダを要求してきて困ります」
「ははは……申し訳ない」
「まあ彼女にも食べてもらえるようにしておきます。……それで? 何を食べるんですか?」
「え? レンくん作ってくれるの?」
「ええ。まあそれなりにはできるので」
「そっかー。……それじゃあ、オムライス。お願いしたい!」
「え。……そんな高度なものできるかな」
「たまご! ふわっふわのとろっとろのやつね! 頑張ってね! ……あ。でもレンくんには難し」
「やってやろうじゃないですか」
「おっと。まさかの負けず嫌い」
レンは腕を捲ってやる気満々だ。
「すぐにでも作ってみせます。めちゃくちゃ美味しいの。ほっぺが落ちそうなのを」
「あ、ありがとう……?」
「なので、……今日は食べたら眠ってください」
「え? ……い、いやだ」
「それだったら、申し訳ないですけど睡眠薬ぶち込みますよ、オムライスに」
「(……なんかデジャブ……)」
レンは、一旦葵から離れたものの、もう一度目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「これまであなたの監視をしてきましたが、今眠ったからといって、もう目覚めないということはないと思います」
「え……?」
目の前の彼は、とてもやわらかい笑みを浮かべている。
「ずっとあなたについていたんです。一日どれくらい削られるのか、計算したらわかります」
「……れんくん……」
「でも今回あなたは、ご飯も食べない眠ってもない。ましてや日記も書かない。そんな無理もすれば、契約を破ることもすれば、もっと削られてるかもしれませんけどね」
「え。持ち上げてから落とすパターンのやつ……?」
「それでも、大丈夫だと思います」
「……ほんとかな」
「これ以上無理をしなければ、あなたは普通に、明後日よりも長く咲けているはずです」
「…………」
「だから。……無理は、しないでください。あおいさん」
「れんくん……」
「ただあなた、ここのところ全く寝なかったので、今寝たところで次起きるのは、計算上恐らく9日の日が沈んだ頃でしょうけれど」
「……うん。たぶんそう……」
「……それでも、今は寝ましょう。あなたの睡眠時間は、今から彼女に変わるまでの少しの間、それからあなたに変わって彼女に変わる約五時間程度です。ほんの少しでも眠った方が、あなたのためです」
「……9日も起きなかったら。どうしよう……」
「それなら大丈夫です。私がちゃんと起こします」
レンは、葵の顔色の悪い頬を指の背ですっと撫でる。
「な。……なんでやさしく、してくれるの……?」
葵は、撫でられると思っていなかったので、びくっと体が反応する。
「倒れるようなことがあれば、私がぶっ殺されるからです」
「あ。そっか。わたしの……っていうよりも、もう一人の体調管理もレンくんは仕事なんだね」
「なので、さっさとご飯を食べてください。そして早く寝てください。9日の夜。必ずあなたを起こすと約束します。最期の晩餐、するんでしょう?」
「ははっ。うん! そうだね!」
「普通今のところ笑えないと思うんですけど……」
「……今は、信じることしかできないから」
「あおいさん……」
「信じて待ってることしかできないのって、すっごいもどかしいね。今までぶっ飛ばしてきて、願いを叶えてきたけど……」
葵はまた、寂しそうな苦しそうな悲しそうな、感情が入り交じった顔で俯く。
「わたしがしてきた『罪滅ぼし』に、みんながお礼を言ってくるんだ。……そんなの、間違ってるよ」
「…………」
「お礼を言われるような人間じゃないんだ。なのにみんな、やさしすぎる。……願いはただの、わたしの罪への償い。やってしまったことなんかやり直せない。ただ、理事長が用意してくれた。これ以上ない『気休め』なのに……」
「…………」
レンは何も言わず、ただずっと聞いてくれていた。



