すべてはあの花のために⑦


「取り敢えずご飯にしますか? それとも寝ますか?」

「あれだね! 新婚さんみた」

「どっちにするんですか?」

「え、えっと。……ご、ご飯で……」


 あれ、彼ってこんな感じだったっけ。


「はあ。……わかりました。まあせめて『あなたの時だけ』でも食べてください。もう一人の方は、全然ご飯食べてくれそうにないので」

「そっか。仕事、してるんだね」

「忙しいからっていうのもありますが、あの人の場合、何故かカル〇スソーダを要求してきて困ります」

「ははは……申し訳ない」

「まあ彼女にも食べてもらえるようにしておきます。……それで? 何を食べるんですか?」

「え? レンくん作ってくれるの?」

「ええ。まあそれなりにはできるので」

「そっかー。……それじゃあ、オムライス。お願いしたい!」

「え。……そんな高度なものできるかな」

「たまご! ふわっふわのとろっとろのやつね! 頑張ってね! ……あ。でもレンくんには難し」

「やってやろうじゃないですか」

「おっと。まさかの負けず嫌い」


 レンは腕を捲ってやる気満々だ。


「すぐにでも作ってみせます。めちゃくちゃ美味しいの。ほっぺが落ちそうなのを」

「あ、ありがとう……?」

「なので、……今日は食べたら眠ってください」

「え? ……い、いやだ」

「それだったら、申し訳ないですけど睡眠薬ぶち込みますよ、オムライスに」

「(……なんかデジャブ……)」


 レンは、一旦葵から離れたものの、もう一度目線を合わせるようにしゃがみ込む。


「これまであなたの監視をしてきましたが、今眠ったからといって、もう目覚めないということはないと思います」

「え……?」


 目の前の彼は、とてもやわらかい笑みを浮かべている。


「ずっとあなたについていたんです。一日どれくらい削られるのか、計算したらわかります」

「……れんくん……」

「でも今回あなたは、ご飯も食べない眠ってもない。ましてや日記も書かない。そんな無理もすれば、契約を破ることもすれば、もっと削られてるかもしれませんけどね」

「え。持ち上げてから落とすパターンのやつ……?」

「それでも、大丈夫だと思います」

「……ほんとかな」

「これ以上無理をしなければ、あなたは普通に、明後日よりも長く咲けているはずです」

「…………」

「だから。……無理は、しないでください。あおいさん」

「れんくん……」

「ただあなた、ここのところ全く寝なかったので、今寝たところで次起きるのは、計算上恐らく9日の日が沈んだ頃でしょうけれど」

「……うん。たぶんそう……」

「……それでも、今は寝ましょう。あなたの睡眠時間は、今から彼女に変わるまでの少しの間、それからあなたに変わって彼女に変わる約五時間程度です。ほんの少しでも眠った方が、あなたのためです」

「……9日も起きなかったら。どうしよう……」

「それなら大丈夫です。私がちゃんと起こします」


 レンは、葵の顔色の悪い頬を指の背ですっと撫でる。


「な。……なんでやさしく、してくれるの……?」


 葵は、撫でられると思っていなかったので、びくっと体が反応する。


「倒れるようなことがあれば、私がぶっ殺されるからです」

「あ。そっか。わたしの……っていうよりも、もう一人の体調管理もレンくんは仕事なんだね」

「なので、さっさとご飯を食べてください。そして早く寝てください。9日の夜。必ずあなたを起こすと約束します。最期の晩餐、するんでしょう?」

「ははっ。うん! そうだね!」

「普通今のところ笑えないと思うんですけど……」

「……今は、信じることしかできないから」

「あおいさん……」

「信じて待ってることしかできないのって、すっごいもどかしいね。今までぶっ飛ばしてきて、願いを叶えてきたけど……」


 葵はまた、寂しそうな苦しそうな悲しそうな、感情が入り交じった顔で俯く。


「わたしがしてきた『罪滅ぼし』に、みんながお礼を言ってくるんだ。……そんなの、間違ってるよ」

「…………」

「お礼を言われるような人間じゃないんだ。なのにみんな、やさしすぎる。……願いはただの、わたしの罪への償い。やってしまったことなんかやり直せない。ただ、理事長が用意してくれた。これ以上ない『気休め』なのに……」

「…………」


 レンは何も言わず、ただずっと聞いてくれていた。