言いたいことを言い切ったのか、レンはふうと息をつく。
「黙りですか。ま、図星なんでしょう。言われて当然ですよね」
「……そう、だね。わたし、なんで産まれてきたのかな……」
「そんなの知りませんよ。それじゃあ朝食を持ってくるので、大人しく待っていてください」
レンは部屋から出て行こうとしたら、葵に服の裾を掴まれた。多分思い切り引き剥がせば離れると思うけれど、それなりに強い力で。
「なんですか」
「言いたいこと、終わった?」
「は?」
「だから、レンくんの言いたいこと、わたしにちゃんとぶつけてくれたかなと思って」
「あんなので足りるわけないでしょう。社員に『あんなこと』させておいて、何言ってるんですか。暢気にあなたがのうのうと生きてることに、途轍もなく腹が立ってますし、殺したくて仕方ありません」
「うん。それじゃあ殺す?」
「……それもできません。家族を、大切な社員を人質に取られてるんですから」
「そっか……」
葵は、『殺されない』ことをとても残念がっていた。
「……道明寺に乗っかってさえいれば命だけは助かるので、私はそうしてるだけです」
「……うん。ごめんね、巻き込んで」
「謝って済むなら、警察なんかいらないんですよ」
「……言いたいこと、終わった?」
「言葉にできないくらいいろんな感情はありますが。……なんですか」
レンは、葵が服を掴んできていた手をそっと離して握り直し、目線を合わせてしゃがみ込む。
「謝って済む問題じゃないのは、ちゃんとわかってるの」
「…………」
「でも、やっぱり言わずにはいられなくて。……全部ね。全部、わたしが悪いから。ごめんなさい」
「…………」
「花咲の人にもみんなにも、何も言わないで? ただ、彼らを守っていて欲しいの、レンくん」
「なんで私がそんなこと、聞かないといけないんですか」
「ううん。きっとレンくんはしてくれる。だから、彼らに指一本触れてしまわないように見ていてあげて? 君ならできる。信じてるよ?」
「……意味が、わかりません」
葵はふわりと、レンに笑いかけながら、その冷たい手で彼の頬を包んでやる。
「わたしはなんでもするよ? 彼らが守れるならなんだってする。レンくんも守るよ? 大丈夫。レンくんの家族も、会社の人だって。みんなを守れるなら、わたしがなんだってする。……でも、そのあとは守ってあげられないんだ。だから、一刻も早く逃げて欲しい。彼らと一緒に。ごめんね。最後までちゃんと、守ってあげられなくて。君に、こんなお願いをして。……ごめんね」
葵は、そっと握られていた手も外し、彼の頭を引き寄せ抱き締める。
「……そんなこと、知ったこっちゃありません。あなたの願いなんか、聞くわけないでしょう」
「そっか。……レンくんはやさしいから、こんなわたしのお願いも、聞いてくれるかと思ったんだけどな」
「は? どこがやさしいんですか。意味がわかりませんね」
「え? やさしいじゃん」
葵はふっと腕を緩めて、レンの瞳を見つめる。
「だって、君の前だったら、泣いていいんでしょう?」
「え」
「ちゃんと寝てって、ちゃんと食べてって。体調のこと気にしてくれたでしょう?」
「は」
「それに、みんなであれ、選んでくれたんでしょう?」



