すべてはあの花のために⑦


 言いたいことを言い切ったのか、レンはふうと息をつく。


「黙りですか。ま、図星なんでしょう。言われて当然ですよね」

「……そう、だね。わたし、なんで産まれてきたのかな……」

「そんなの知りませんよ。それじゃあ朝食を持ってくるので、大人しく待っていてください」


 レンは部屋から出て行こうとしたら、葵に服の裾を掴まれた。多分思い切り引き剥がせば離れると思うけれど、それなりに強い力で。


「なんですか」

「言いたいこと、終わった?」

「は?」

「だから、レンくんの言いたいこと、わたしにちゃんとぶつけてくれたかなと思って」

「あんなので足りるわけないでしょう。社員に『あんなこと』させておいて、何言ってるんですか。暢気にあなたがのうのうと生きてることに、途轍もなく腹が立ってますし、殺したくて仕方ありません」

「うん。それじゃあ殺す?」

「……それもできません。家族を、大切な社員を人質に取られてるんですから」

「そっか……」


 葵は、『殺されない』ことをとても残念がっていた。


「……道明寺に乗っかってさえいれば命だけは助かるので、私はそうしてるだけです」

「……うん。ごめんね、巻き込んで」

「謝って済むなら、警察なんかいらないんですよ」

「……言いたいこと、終わった?」

「言葉にできないくらいいろんな感情はありますが。……なんですか」


 レンは、葵が服を掴んできていた手をそっと離して握り直し、目線を合わせてしゃがみ込む。


「謝って済む問題じゃないのは、ちゃんとわかってるの」

「…………」

「でも、やっぱり言わずにはいられなくて。……全部ね。全部、わたしが悪いから。ごめんなさい」

「…………」

「花咲の人にもみんなにも、何も言わないで? ただ、彼らを守っていて欲しいの、レンくん」

「なんで私がそんなこと、聞かないといけないんですか」

「ううん。きっとレンくんはしてくれる。だから、彼らに指一本触れてしまわないように見ていてあげて? 君ならできる。信じてるよ?」

「……意味が、わかりません」


 葵はふわりと、レンに笑いかけながら、その冷たい手で彼の頬を包んでやる。


「わたしはなんでもするよ? 彼らが守れるならなんだってする。レンくんも守るよ? 大丈夫。レンくんの家族も、会社の人だって。みんなを守れるなら、わたしがなんだってする。……でも、そのあとは守ってあげられないんだ。だから、一刻も早く逃げて欲しい。彼らと一緒に。ごめんね。最後までちゃんと、守ってあげられなくて。君に、こんなお願いをして。……ごめんね」


 葵は、そっと握られていた手も外し、彼の頭を引き寄せ抱き締める。


「……そんなこと、知ったこっちゃありません。あなたの願いなんか、聞くわけないでしょう」

「そっか。……レンくんはやさしいから、こんなわたしのお願いも、聞いてくれるかと思ったんだけどな」

「は? どこがやさしいんですか。意味がわかりませんね」

「え? やさしいじゃん」


 葵はふっと腕を緩めて、レンの瞳を見つめる。


「だって、君の前だったら、泣いていいんでしょう?」

「え」

「ちゃんと寝てって、ちゃんと食べてって。体調のこと気にしてくれたでしょう?」

「は」

「それに、みんなであれ、選んでくれたんでしょう?」