すべてはあの花のために⑦


『願い』という言葉に、数名が反応を示す。それをシントは横目でちらりと確認をしたが、隣のトーマは、大きな息を吐いていた。ため息とも安堵とも取れるような、そんな息のつき方だった。


「……俺の話も、理事長から聞いてたわけですか」

「そうだね魔王様? ま、最近そんな気ないけど」

「……あの、信人さん。『願い』って……なんで杜真も」


 ツバサが尋ねようとしたところで、シントはすっと手を前に出した。そしてゆっくりと首を振る。


「それはまたあとで話そう。先にどうして俺が『ここ』へ帰ってきたのかでしょう?」


 きちんと最初から聞きたい話がわかっていたのに、脱線したのはお前だろと、みんなは思った。
 そんなみんなの心も読めているのか、シントは軽く笑ってみんなの視線を上手く流したけれど。


「道明寺に隠してもらってた俺は、今まで任された仕事をしてきた。それはアキに会っても、みんなに会っても変わらずね。それは、葵がいたからだ」


 ぐっと拳に力を込め、シントは悔しさに顔を歪める。


「アキ。みんなは知ってるの? お前と葵のこと」

「みんなは知ってる。でも杜真が知ってるかは……」

「……? 結婚の話?」


 トーマがそれを知っていて、みんなは引いた。思いっきり、引いた。


「え。普通に葵ちゃんから聞いたんだけど」

「え? そうなの?」

「あ。はい。教えてもらいました」


「だったら言っていいか」と、シントがどこかほっとしたような顔になる。


「もう俺は、皇のクリスマスパーティーからまともに葵とも理事長とも話をしていないかったら、葵が話したかどうかはわからなかったんだけど。……でも、そっか。話したんだね」


 そして本当に嬉しそうに、だらしなく頬が緩んでいた。
 しかし、そんな表情もあっという間。すっとシントは思案顔になる。


「(でも、葵が『赤』のことを話してるかどうかはわからない。……葵は、みんなに嫌われたくないと思っているし、何より隠したいはずだ)」


 だったらそれとなく、みんなに聞いてどこまで知ってるか聞かないと、言うに言えない。
 シントは、ゆっくりとみんなに視線を向ける。取り敢えず…………紅一点から。


「紀紗ちゃん。どうしてアキと葵が結婚するって知ったの?」

「皇主催のクリスマスパーティーに、あたしたちも参加したからです」

「あたしたち? それは誰かな」

「ここにいる杜真以外です」

「葵からは、なんでアキと結婚するって聞いた?」

「……ちょっと、よくわかってないんですけど……」


 それにはみんなもよくわからないのか、頷いている。

 ――ただ、一人を除いては。


「シントさん。多分オレが一番知ってると思うんで、オレから話してもいいですか」


 そう切り出したヒナタに、シントはゆっくりと頷いた。