『願い』という言葉に、数名が反応を示す。それをシントは横目でちらりと確認をしたが、隣のトーマは、大きな息を吐いていた。ため息とも安堵とも取れるような、そんな息のつき方だった。
「……俺の話も、理事長から聞いてたわけですか」
「そうだね魔王様? ま、最近そんな気ないけど」
「……あの、信人さん。『願い』って……なんで杜真も」
ツバサが尋ねようとしたところで、シントはすっと手を前に出した。そしてゆっくりと首を振る。
「それはまたあとで話そう。先にどうして俺が『ここ』へ帰ってきたのかでしょう?」
きちんと最初から聞きたい話がわかっていたのに、脱線したのはお前だろと、みんなは思った。
そんなみんなの心も読めているのか、シントは軽く笑ってみんなの視線を上手く流したけれど。
「道明寺に隠してもらってた俺は、今まで任された仕事をしてきた。それはアキに会っても、みんなに会っても変わらずね。それは、葵がいたからだ」
ぐっと拳に力を込め、シントは悔しさに顔を歪める。
「アキ。みんなは知ってるの? お前と葵のこと」
「みんなは知ってる。でも杜真が知ってるかは……」
「……? 結婚の話?」
トーマがそれを知っていて、みんなは引いた。思いっきり、引いた。
「え。普通に葵ちゃんから聞いたんだけど」
「え? そうなの?」
「あ。はい。教えてもらいました」
「だったら言っていいか」と、シントがどこかほっとしたような顔になる。
「もう俺は、皇のクリスマスパーティーからまともに葵とも理事長とも話をしていないかったら、葵が話したかどうかはわからなかったんだけど。……でも、そっか。話したんだね」
そして本当に嬉しそうに、だらしなく頬が緩んでいた。
しかし、そんな表情もあっという間。すっとシントは思案顔になる。
「(でも、葵が『赤』のことを話してるかどうかはわからない。……葵は、みんなに嫌われたくないと思っているし、何より隠したいはずだ)」
だったらそれとなく、みんなに聞いてどこまで知ってるか聞かないと、言うに言えない。
シントは、ゆっくりとみんなに視線を向ける。取り敢えず…………紅一点から。
「紀紗ちゃん。どうしてアキと葵が結婚するって知ったの?」
「皇主催のクリスマスパーティーに、あたしたちも参加したからです」
「あたしたち? それは誰かな」
「ここにいる杜真以外です」
「葵からは、なんでアキと結婚するって聞いた?」
「……ちょっと、よくわかってないんですけど……」
それにはみんなもよくわからないのか、頷いている。
――ただ、一人を除いては。
「シントさん。多分オレが一番知ってると思うんで、オレから話してもいいですか」
そう切り出したヒナタに、シントはゆっくりと頷いた。



