すべてはあの花のために⑥


 今度はつんつんと、頬を突かれた。


「だから、聞いてやりたかったんだ、お前の本当の気持ち。吐いて欲しかったんだ。俺らに。……でも、それもやっぱり難しいんだな」

「……ごめんなさい」

「謝ることじゃない、こんなこと。……俺らじゃなくて、誰か吐ける人はいるのか?」

「うん。大丈夫。ありがとう。心配してくれて」


 ツバサは悔しそうに足下を見つめ、もう片方の指先を強く握り込んでいた。


「……大丈夫だよ」

「え……?」


 そんなツバサの手を、葵がやさしく包み込む。


「いつでも背中、押してあげるからね」

「……ん。ありがとな」


 小さく笑って、ツバサはぽんと頭を撫でてくれた。


「そうそうそれでね、話は戻るんだけど。キサちゃんに『だったら難しくしちゃえばいいんだよ!』って教えてもらったの」

「は? どういうこと?」


 目が点になったツバサに、葵は例のカードを取り出す。


「これは……何? 国旗?」

「それアキラくんも言ってたけど違うから」


 ツバサは、そこに書かれた文字を一生懸命読んでいた。


「……ケンカ。仲直りできた? みんなと」

「ツバサくんと、……あと一人」

「ああ、あいつね」


 流石はお兄ちゃん。よくわかってる。


「あいつは素直じゃないだけだから。気にすんなよ」

「うん。大丈夫。だって怒らせたのはわたしっていう事実は変わらないもの」


 葵はこのカードについて話すことに。


「ここにね。わたしが言いたくないこと、書いてるの」

「……ふーん」


 首を傾げる彼の顔には『俺こういうのあんま得意じゃねえんだよな』と書いてあった。


「わたしがあの時話せなかったのは、みんなにわたしのことを『知って欲しくなかった』からなんだ」

「(……ということは、アキのことは残酷な運命と、何か関係があるってことか)」

「でも、『わかって欲しい』んだ。わたしのこと」

「は? 知らないとわからないし」

「うん。そうなんだ。だから、こんなカードになったんだ」


 そう言う葵に、ツバサはもう一度カードへ視線を落とす。


「これが、わたしが言いたくないけど言える限界なの。話せないけど、話せるギリギリなの。……だから、どうかわかって欲しいんだ」