「この間は『ごめんなさい』。ツバサくん」
「………………」
「わたしがあんな中途半端でわけがわからない言い方しちゃったから、あんな顔させちゃったね」
「(俺なんかより、お前の方がよっぽどつらそうだったのに……)」
「それに、わたしがみんなに『嫌われて当然』とか言っちゃったから。ツバサくんにあんなことさせちゃった。……あんなこと、言わせちゃったよ」
「(確かにそんなこと思われて頭にもきたけど、でもお前が一番つらいんだって。そうだったって気がついた時は、もう遅くて……)」
「きちんと言葉にしてあげられなくて、『ごめんなさい』。どうしても話せない、話したくないわけがあるんだ」
「(そうだろうって、わかってたはずなのに。お前のこと、聞かずに待つからって、そう決めてたはずなのに。……あのことが頭から離れなくて、それがずっと頭の中、グルグル回ってた)」
『何せ、この婚姻は『娘が是非に』と言っていたんだからな。娘は君以外考えられないそうだ。どうしても君がいいと言ってきたんだからね』
『わたしが、アキラくんがいいって言ったんだ。わたしは結婚するつもりでいるよ』
「でも、あの時わたしが話した『結婚のこと』『わたしがアキラくんを好きだ』ってこと、間違いじゃないんだ。本当の、ことなんだよ。……嘘は言ってないから、信じて欲しいんだ」
「(大丈夫。だってあの時言っただろ……?)」
『お前の言ってること、間違ってたこと一つもない』
『言えることは多分嘘じゃないって思う』
『俺はそれを信じるだけだ』
「(だから『信じて』なんて。俺には改めて言う必要なんてないんだよ)」
ツバサはそっと、葵の手に自分のそれを重ねた。
「え? ツバサくん……?」
「うん。それで? 続けて? 教えて? 葵」
すごく葵を見つめる瞳が、声がやさしいので、葵は少し胸がざわざわした。
「え、っと。……あの時、わたしはこれ以上わかりやすく言えないって言って、逃げようとしてた。みんなから」
「そうだな」
「でもそれ、無意識だったんだ。キサちゃんに言われて気がついた。『聞かれたくないから、逃げたかったんでしょ』って。そう、教えてくれた」
「でも俺は、そんな気持ちもわからなくもないよ」
「え……?」
「聞かずに待っていてくれて、俺はすごい助かってるから」
「……でも。聞きたいって、そう思うよ。ツバサくんのこと。力になってあげたいって思うんだ」
「そっくりそのまま」
「へ……?」
「だから、この間のお前も、俺らはみんなそう思ってたってこと」
ツバサは立てた膝に頭を置いて、葵の頭をやさしく撫でる。
「つらそうだった。何より、お前が一番」
「そんな、こと……」
「言わなくていいよ。俺らはもう、お前の気持ち、言葉にしてもらわなくたって、大体わかるんだから」
「え! すごいね! エスパーみたいだね!」
「エスパーじゃなくて友達だろ?」
「……っ」



