そうしてる内に、チカゼが動きをやめて、葵の顔の横に手をつく。
「……なんで、止めねえんだよ」
「いや止めたけど」
「……っ」
「ねえチカくん。好きってすごいね」
「は?」
「好きってだけで、人を信じられるし。信じて欲しいって。そう、思えるんだね」
「……アオイ?」
そう言葉にすると、今度は葵の方が苦しそうな顔になる。
「……チカくん。本当だから」
「は?」
葵はそっとチカゼを押し退けてゆっくり起き上がる。
「わたしが言ったことも、伝えようとしてることも、本当だから」
「………………」
「ずっと謝れなくて、『ごめんなさい』。チカくん、怒らせちゃって。ほんと、ごめん」
「アオイ……」
俯いた顔の横から、そっと遠慮がちに後頭部へと手が触れる。葵が顔を上げるとすぐそこには、彼のやさしい顔が目の前にあった。
――ドンドンドンドンッッ!
「「――!?!?!?」」
先程まで目と鼻の先にいた彼は、急に大きな音を立てた倉庫の扉に、まるで猫のように飛び上がった。心霊現象かと思い、そのまま怯えたチカゼが抱きついてくる。
「な、なんなんだよ……」
「……幽霊?」
「ひいっ!?」と、小さな悲鳴を上げて、今度は葵の陰に隠れた。
「いや、そんなわけないじゃん。治まったし」
今はもう、何事もなかったかのように静かだ。
「な、なんだって。いうんだよ……」
「だから、もう大丈夫だから離してって」
最終的に、後ろからお腹に腕を回して、彼の足の間に収まったのだが。
「まあ、全然わかんねえことだらけだけど……んっ」
「……!」
耳の裏辺りに、チリッとした痛み。
「ち、ちかくん……!」
「そんな怒んなよ。愛情表現だっつの」
「ば、ばか……!」
「はいはい。わかったわかった」
「チカ! バカ! チカ! バカ!」
「見えるとこにすんぞ」
無言の意思表示をすると、肩に額が乗っかってくる。
「どこにも。行くんじゃねえよ」
「ちかくん……」
「オレの。手が届くとこに。ちゃんといろ」
少しだけ震える彼の手に、とんとんと触れた。
「ほんと、お前の言ってること難しいわ」
「すんません」
「でもちゃんとわかってやるから、待っとけ」
チカゼはすっと手を離す。
「大丈夫だ。安心しとけ。ぜってえ嫌いになんてなんねぇし、お前のことを知れてオレは今ウッキウキだ」
「違う。チカくんはにゃ~って言わないと」
「いや、別にサルになって言ったわけじゃねえから」
「ははっ。……うん、そうだね?」



