「……この間は、あんなこと言って、悪かった」
「……! それは。わたしが話せないから……」
「そうだとしても、ちゃんと理解もせず一方的に気持ちぶちまけちまったオレの方が悪い」
「……そんなこと、ない。わたしが話したら、いいことなんだから……」
チカゼはそっと、葵の頬に手を添えて上を向かせる。
「……まだ。話してくんねえの」
「話してあげられなくて。ごめんっ」
「オレが嫌うって、そう思ってんの?」
「え。……ちょ、ちかく」
「なあ。どうやったらわかんの。お前を嫌うわけないって」
「っ。ち。ちかくっ……ん」
チカゼの唇が、やさしく頬に、額に、鼻先に、瞼に触れる。
「どうやったら、教えてくれんの……?」
「い、言え、ないからっ。か、書いたのっ……!」
「は? こんなん伝わってこねえし。人に伝わらないとお手紙って意味ないんですよー」
「んっ、ちょ。ほんと、もうやめ……」
「これ、お前のこと書いてあんの?」
「……あ、のね。さっきも言ったけど、わたしのこと、みんなに知って欲しくないんだ。本当は」
「は?」
「でも、わかって欲しいんだ。……矛盾してるから、こんなカードになっちゃったんだ」
「今までにおいて最強にわかんねえ」
「……すんません」
「……もしさ、わかったら話してくれる? お前のこと」
「全部は……無理だけど。でも、わたしもわかってくれたら嬉しい。話したいって、そう思ってる」
葵がそう言うと、チカゼは腰を引いて抱き締めてくる。
「そんじゃあ、絶対わかってやる」
「え」
「だから教えて? お前のこと。……絶対、嫌いになんてなんねえよ」
「………………」
「まだ信じらんねえのか?」
「人の気持ちほど、変わりやすいものはない」
「……んだよ。オレがお前のこと好きなの、マジわかってねえんだな」
「ううん。信じてるよ」
「っ、だから! 変わんねえって言ってるだろうが……!」
「うん。……ありがとう。うれしい……っ」
「ダメだな。ぜってえ思ってない」
「えっ?」
とんと、チカゼに押し倒される。
「やる」
「ええ……!?」
そう言うが早いか、チカゼは葵の首筋にかぶり付き、太ももを撫でてきた。
「ち。ちかくん、待っ」
「待たねえ。お前ほんとわけわかんねえ。やっぱり一回体に覚えさせる」
今度はブラウスのボタンを外しにかかる。
「……!? ちょ、ちょっと待てーい!」
「待つわけねえじゃん」
「いや。マジストップストップ! だ、だれかー! ち、チカくんはここにいますよーッ!」
「残念。まだ始業まで時間あるんだよなー」
軽くパニックを起こす葵に対し、そんなことをするチカゼはどこか苦しそうだった。表情から『どうして。なんでわかってくんねえんだ』そう、伝わってくる。
「(チカくん。ちがうんだ……っ)」
いや。違わないか。信じ切れてないとこがある。
「(……これは、わたしの考えだから。変わることはないんだ)」



