大きな声が狭い部屋に反響してうるさかった。
「チカくんうるさい」
「おま、……ふっざけんな! 絶対やめさす! はい。オレは届くまで諦めねえ絶対」
「いい感じに使えてよかったね、それ」
「……ふざけんな」
苦しそうに、彼はそう言っている。でも、葵はふわりと笑う。
「でも、アキラくんと結婚したいっていうわたしもいるのは間違いではないんだ」
「……だから、それがわっかんねえんだって」
頭を抱えてしまった。
ありゃま。今までで一番わかりやすく言ったつもりだったんだけども……。
「だからね? このままだとわたしはアキラくんと結婚しちゃうから、それはやっぱりわたしの意思じゃないし、嫌だなって思うんだ。アキラくんには、申し訳ないんだけど」
「確かに、そこまでいくとアキが可哀想だけどよ……」
「うん。扱い今までで最低だと思うよ、わたし」
「そうだな。よかったと思うことにするわ、今までのオレの扱い」
「だから、わたしも諦めないよ。チカくん」
「……でも、アキが好きなんじゃ……」
「好きって気持ちももちろんある」
「……ダメだ。もうマジわっかんねえ。ギブギブ」
そう言って彼は後ろに倒れ、マットへ横になった。
「諦める? チカくん」
「……お前のことを諦めるわけじゃねえよ」
天井を見つめている瞳は、とても力強い。
「そんなお前、ほっとくわけねえじゃん」
「チカくん……」
「これだけは言っとく。オレはマジでお前が好き」
「え」
「ほんと、この一ヶ月死ぬかと思った。お前にあんなこと言っちまった手前オレから会いに行くなんて格好悪いし、でもほんと会えなくて話せなくて。……つらかった」
「ちかくん……」
「もう限界だった。だから、今日お前来てくれねえかなって思って。……ここで、待ってたんだ」
「……うん。ちゃんと来たよ?」
腕で目元を隠しているチカゼの頭を、葵はやさしく撫でた。
「……すきなんだっ。あおい」
「……っ」
「ほんと、もう。ずっと苦しかったんだ」
「……っ。うん」
「好きすぎて。……マジでどうにかなる」
「…………」
「嫌いになるわけねえじゃん。こんなに好きなのに。……あー。マジ心臓痛え」
「……ちかくん」
「はあー……」と、溢れる彼のため息は、どこか泣き出しそうだった。
「アキになんて。やるかよ」
「尊敬してるのにそんなこと言っていいんだ?」
「そんなん関係ねえ」
「……!」
冗談で言ったつもりなのに、ちらり彼の腕の隙間から見えた瞳に射貫かれる。
「ち、か。くん……」
「アオイ。好きだ。もうお前と話せないと、会えないと、……触れねえと死にそう」
そう言ってチカゼは、葵の手を取って起き上がる。
「あ。……えっと……」
「逃げんな。アオイ」
腰に腕も回されて、逃げ場がない。



