チカゼは何も言わなかったが、初めに比べたら空気は和らいだ気がした。
「あの時言ったことは全て事実です。……でも、話せるところまで話したせいで、みんなにあんな顔をさせてしまいました」
「…………」
「キサちゃんに、わかりやすくではなく難しく伝えてみたらと言われたので、今度はこのカードに。少し難しいかもしれませんが、『わたし』のことを書いたんです」
葵は、チカゼが持っているカードをつんと触る。
チカゼをちらりと見たら、『は?』って顔になってて、ついおかしくなって笑ってしまった。
「そうですよね。言ってること、わけがわからないと思います」
後ろに手をついて天井を見上げる。
「話せなくて。ごめんなさい。でもそのカードには、わたしの気持ちを込めたんです。だからどうか、わかって欲しい。これが、わたしがみんなに話せる限界なんです」
「…………」
「……みんなに、嫌われたく、ないんです」
「……?」
「わたしのこと、知って。……嫌われたく、ないんです」
「…………」
「知って欲しくないけど、でも。みんなにはわかっていて欲しくもあるんです。こんな。……こんなわたしでも。みんななら受け入れてくれるんじゃないかって。そう。思ってます」
「……っ」
「でもっ。受け入れられなかったらどうしようって。そう。思って。……どうしても本当のこと。言えないんです。……言いたく、ないんですっ」
「…………」
「だから。話せなくって。……あんな顔させてしまって。あんなこと言わせて。…………っ、ごめんなさ」
言い切る前に、チカゼが葵のことを強く抱き締めてきた。
「!? ちかく」
「嫌うわけねえだろうが」
キツく、体が軋みそうになるほど彼に抱き締められる。
「何か? オレがお前のこと嫌いになるとでも思ったのかよ」
「……思って。ません」
「さっき言ってたじゃねえか。『嫌われたら怖い』って。そうじゃねえのかよ」
「怖いけど。……みんなは嫌わないって。信じてます」
「なんだよそれ。結局のとこ、思ってんじゃねえか」
「!? ちが」
「嫌いになんて、ならねえよ?」
「え……?」
先程までの鋭い空気が、急にふわっと柔らかく、葵を包み込むように穏やかになる。
そっと、体を離した時の彼の顔は、すごくやさしかった。
「どうしたらわかってくれるんだ。何か? キスぶちかましたらいいのか?」
「……!? い、いりません……!」
「なんだよ。オレがお前好きってのがわかってねえんだろ? だったら体に覚えさせてやるしかねえじゃん」
誰ですか! この積極的すぎる輩はっ!
慌てる葵を余所に、チカゼは満足そうに笑っていた。



