時刻は7時40分過ぎ。
「……いない、か……」
茶室を覗いてみるけれど、そこには誰もいなかった。
「……だったらあそこかな」
それなら先に、通り道のあちらへ行こう。
武道場の大きな扉を、ギイ~と音を立てながら開ける。すると、まだ余裕をぶっこいていた二人が組み合っていて、驚いた様子でこちらを見ていた。
「やっぱりこちらにいたんですね」
「あおいチャン……?」
「あーちゃん……」
二人はどうしたものかと視線を合わせているが、どうやら逃げようとはしなかった。
「お二人に、渡したいものがあるんです」
葵は、三色のリボンが巻かれたチョコを渡した。
「「………………」」
「……お返事、もらえませんか?」
苦笑いをしながら二人は、青と白を葵の左手に巻いてくれた。
「……あおいチャン」
「はい。なんでしょう」
「なんで赤があるのか教えて欲しいんだけど」
「これは、アキラくんが勝手に巻いたものです。赤は持ってきてはいませんから」
二人は一気に力が抜けたのか、その場に座り込んだ。
「あおいチャン! ほんっとごめん!」
「え!?」
「あーちゃん。おれもごめん……!」
「ええ!?」
そして二人して土下座をし始めるから、慌てて葵も土下座返し。
「わ、わたしの方こそ! この間は本当にごめんなさい……!」
ぐりぐりと、畳に思い切り額を擦りつけた。
「いやいや! あおいチャン! 頭上げて!」
「おれらが悪いんだから! あーちゃん悪くないのに謝る必要なんてないじゃん!」
「わたしが悪いんですうー……」
言っても聞かない葵に「あおいチャン白! 白でお話どうぞ!」と、アカネに催促される。
「(ぐすん)ずみまぜん……」
「「(やっと起きてくれた……)」」
まあ擦りあげてたから、葵のおでこは真っ赤になっていた。
「二人に、謝りたかったんです。ずっと」
そう言って葵は俯きながら、カナデに伝えたように、あんなことを言わせてしまったこと。あんな顔をさせてしまったこと。話してあげられないこと。この三つに、『ごめんなさい』と謝った。
「あおいチャン。おれらもごめんなさい」
「あーちゃんの気持ちも知らずに、勝手にあっくんに嫉妬してたんだ」
二人も、もう一度頭を下げながらそう伝えてくれる。
「でも、きちんと言えなくて」
「ううん。そんなの当たり前のことじゃん」
「え……?」
「誰だって言いたくないことがあるのに、無理に聞こうとしてたおれらも悪かったんだ」
二人は小さく笑っていた。
「無理に聞こうとしてごめん。どうかしてたよ」
「あーちゃん。だからまた、おれとたくさん話そ?」
二人は葵の手を取って笑いかけてくれる。
「……はいっ。ありがとう。二人とも」
そう言う葵に、二人は嬉しそうに頬を緩ませた。
「でも、いざとなったらごめんけど容赦しないよ」
「……!」
「??」
アカネに囁かれた言葉に、慌てて葵は耳を塞いだ。
きっと、運命のことを言っているのだろう。今は引いてあげると、彼はそう言っているのだ。
「(……こ、こわ~……)」
普段が柔らかいだけあって、ふとした瞬間にぼろが出そうだった。



