すべてはあの花のために⑥


 時刻は7時40分過ぎ。


「……いない、か……」


 茶室を覗いてみるけれど、そこには誰もいなかった。


「……だったらあそこかな」


 それなら先に、通り道のあちらへ行こう。

 武道場の大きな扉を、ギイ~と音を立てながら開ける。すると、まだ余裕をぶっこいていた二人が組み合っていて、驚いた様子でこちらを見ていた。


「やっぱりこちらにいたんですね」

「あおいチャン……?」

「あーちゃん……」


 二人はどうしたものかと視線を合わせているが、どうやら逃げようとはしなかった。


「お二人に、渡したいものがあるんです」


 葵は、三色のリボンが巻かれたチョコを渡した。


「「………………」」

「……お返事、もらえませんか?」


 苦笑いをしながら二人は、青と白を葵の左手に巻いてくれた。


「……あおいチャン」

「はい。なんでしょう」

「なんで赤があるのか教えて欲しいんだけど」

「これは、アキラくんが勝手に巻いたものです。赤は持ってきてはいませんから」


 二人は一気に力が抜けたのか、その場に座り込んだ。


「あおいチャン! ほんっとごめん!」

「え!?」

「あーちゃん。おれもごめん……!」

「ええ!?」


 そして二人して土下座をし始めるから、慌てて葵も土下座返し。


「わ、わたしの方こそ! この間は本当にごめんなさい……!」


 ぐりぐりと、畳に思い切り額を擦りつけた。


「いやいや! あおいチャン! 頭上げて!」

「おれらが悪いんだから! あーちゃん悪くないのに謝る必要なんてないじゃん!」

「わたしが悪いんですうー……」


 言っても聞かない葵に「あおいチャン白! 白でお話どうぞ!」と、アカネに催促される。


「(ぐすん)ずみまぜん……」

「「(やっと起きてくれた……)」」


 まあ擦りあげてたから、葵のおでこは真っ赤になっていた。


「二人に、謝りたかったんです。ずっと」


 そう言って葵は俯きながら、カナデに伝えたように、あんなことを言わせてしまったこと。あんな顔をさせてしまったこと。話してあげられないこと。この三つに、『ごめんなさい』と謝った。


「あおいチャン。おれらもごめんなさい」

「あーちゃんの気持ちも知らずに、勝手にあっくんに嫉妬してたんだ」


 二人も、もう一度頭を下げながらそう伝えてくれる。


「でも、きちんと言えなくて」

「ううん。そんなの当たり前のことじゃん」

「え……?」

「誰だって言いたくないことがあるのに、無理に聞こうとしてたおれらも悪かったんだ」


 二人は小さく笑っていた。


「無理に聞こうとしてごめん。どうかしてたよ」

「あーちゃん。だからまた、おれとたくさん話そ?」


 二人は葵の手を取って笑いかけてくれる。


「……はいっ。ありがとう。二人とも」


 そう言う葵に、二人は嬉しそうに頬を緩ませた。


「でも、いざとなったらごめんけど容赦しないよ」

「……!」

「??」


 アカネに囁かれた言葉に、慌てて葵は耳を塞いだ。
 きっと、運命のことを言っているのだろう。今は引いてあげると、彼はそう言っているのだ。


「(……こ、こわ~……)」


 普段が柔らかいだけあって、ふとした瞬間にぼろが出そうだった。