「……なんだかアオイちゃん、二人いるみたいだね」
「っ、え……?」
「なんかよくわからないけど、そんな気がしただけ」
「かなでくん……」
「このカードが、アオイちゃんが話せること?」
「……はい。わからないかもしれない。でも、わかって欲しいんです」
「やっぱりなんかおかしいよね」
「……すみません」
カナデは再びカードを開いて、それを眺める。
「だったらさ、笑ってよ。アオイちゃん」
「……!」
「アオイちゃんが笑ってくれたら、俺は嬉しいよ?」
「……うん」
「アオイちゃんは、まだ完全にアキのことが好きってわけじゃないんだよね?」
「ん? ……うーんと。そういうことに、なるのかな……?」
「だったら俺にもまだチャンスはあるよね」
「カナデくん……?」
カナデはふっと笑って、葵のおでこにキスを落とした。
「……!」
「あ。……真っ赤。久し振りに見た」
「か、かなでくん……っ」
「俺、絶対に諦めないからさ」
そう言ってカードを目の前にちらつかせる。
「これも、絶対わかってみせるからね。最後まで諦めない。……ごめんけど、負けず嫌いの諦め悪い奴だから。その辺覚悟してて?」
にこっと笑うカナデが眩しくて、葵もついつられて笑ってしまった。
「……うんっ。きっとカナデくんならわかってくれるって信じてるから。わかったら内緒にしてて? カナデくんの心の中に留めておいて?」
「うん。アオイちゃんがそれを望むなら」
そう言って二人は立ち上がった。
「……その青は、俺からの謝罪のつもりだったんだ」
「え?」
「この間は、『ごめんね』アオイちゃん」
「……それじゃあ、お互い様ですね?」
「うん。また一緒にお昼ご飯食べよ?」
「はい。もちろんですよ!」
「食べ合いっこしよ?」
「それはしません」
「ちぇー」
「ふふっ。……ありがとうカナデくん。あなたの友達になれて、わたしは本当に幸せです」
「友達で終わらせないよ。覚悟しといてって言ったでしょ」
カナデはぐっと葵を引き寄せ、低音で囁く。色っぽい声に、腰が抜けそうになった。
「はは。……可愛いなあもう」
「も、もう知りません……!」
葵はドスドスと足音を立てながら、扉へと向かった。
「アオイちゃん」
「ん? なんですか?」
「今誰のとこ行っていたの?」
「……アキラくんだけです。赤はアキラくんが勝手に結びました」
「ははっ。……そっか。アオイちゃんがあげたわけじゃないんだね?」
「わたしのチョコは、カナデくんに渡したものと同じものばかりですよ」
でも、一つだけは違うけれど。
「アオイちゃん。思ったことがあるんだ」
「……? なんでしょう」
「まだ俺とアキだけなのに、すでに左手大変なことになってると思うんだけど……」
「……た。確かに……」
「ほ、放課後楽しみにしてるよ~……」
「……解いちゃいたい」
「いやダメだから」
「だってわたし、ジンクスとか関係無しにそれに乗っかっただけなんです~……」
「……ストーカーに遭うよ」
「(すでに遭ったことあるけど)やめておきます」
そんな下らない会話に、ふっと笑みがこぼれる。
「それじゃあまた放課後に。カナデくんっ」
「うん。……チョコありがとう。アオイちゃんっ」
最後に、久し振りの綺麗な笑顔を見たカナデは。
「~~……っ。やっば。距離離れてなかったら襲ってたってえー……」
教室で一人悶絶してたりする。



