すべてはあの花のために⑥


「……なんだかアオイちゃん、二人いるみたいだね」

「っ、え……?」

「なんかよくわからないけど、そんな気がしただけ」

「かなでくん……」

「このカードが、アオイちゃんが話せること?」

「……はい。わからないかもしれない。でも、わかって欲しいんです」

「やっぱりなんかおかしいよね」

「……すみません」


 カナデは再びカードを開いて、それを眺める。


「だったらさ、笑ってよ。アオイちゃん」

「……!」

「アオイちゃんが笑ってくれたら、俺は嬉しいよ?」

「……うん」

「アオイちゃんは、まだ完全にアキのことが好きってわけじゃないんだよね?」

「ん? ……うーんと。そういうことに、なるのかな……?」

「だったら俺にもまだチャンスはあるよね」

「カナデくん……?」


 カナデはふっと笑って、葵のおでこにキスを落とした。


「……!」

「あ。……真っ赤。久し振りに見た」

「か、かなでくん……っ」

「俺、絶対に諦めないからさ」


 そう言ってカードを目の前にちらつかせる。


「これも、絶対わかってみせるからね。最後まで諦めない。……ごめんけど、負けず嫌いの諦め悪い奴だから。その辺覚悟してて?」


 にこっと笑うカナデが眩しくて、葵もついつられて笑ってしまった。


「……うんっ。きっとカナデくんならわかってくれるって信じてるから。わかったら内緒にしてて? カナデくんの心の中に留めておいて?」

「うん。アオイちゃんがそれを望むなら」


 そう言って二人は立ち上がった。


「……その青は、俺からの謝罪のつもりだったんだ」

「え?」

「この間は、『ごめんね』アオイちゃん」

「……それじゃあ、お互い様ですね?」

「うん。また一緒にお昼ご飯食べよ?」

「はい。もちろんですよ!」

「食べ合いっこしよ?」

「それはしません」

「ちぇー」

「ふふっ。……ありがとうカナデくん。あなたの友達になれて、わたしは本当に幸せです」

「友達で終わらせないよ。覚悟しといてって言ったでしょ」


 カナデはぐっと葵を引き寄せ、低音で囁く。色っぽい声に、腰が抜けそうになった。


「はは。……可愛いなあもう」

「も、もう知りません……!」


 葵はドスドスと足音を立てながら、扉へと向かった。


「アオイちゃん」

「ん? なんですか?」

「今誰のとこ行っていたの?」

「……アキラくんだけです。赤はアキラくんが勝手に結びました」

「ははっ。……そっか。アオイちゃんがあげたわけじゃないんだね?」

「わたしのチョコは、カナデくんに渡したものと同じものばかりですよ」


 でも、一つだけは違うけれど。


「アオイちゃん。思ったことがあるんだ」

「……? なんでしょう」

「まだ俺とアキだけなのに、すでに左手大変なことになってると思うんだけど……」

「……た。確かに……」

「ほ、放課後楽しみにしてるよ~……」

「……解いちゃいたい」

「いやダメだから」

「だってわたし、ジンクスとか関係無しにそれに乗っかっただけなんです~……」

「……ストーカーに遭うよ」

「(すでに遭ったことあるけど)やめておきます」


 そんな下らない会話に、ふっと笑みがこぼれる。


「それじゃあまた放課後に。カナデくんっ」

「うん。……チョコありがとう。アオイちゃんっ」


 最後に、久し振りの綺麗な笑顔を見たカナデは。



「~~……っ。やっば。距離離れてなかったら襲ってたってえー……」


 教室で一人悶絶してたりする。