すべてはあの花のために⑥


 葵は、何も言わないカナデの前へ、そっとカードを差し出す。


「……? これは?」

「キサちゃんに、『わかりやすく言えないなら、難しく言えばいいんだよ』って、言ってもらったんです」

「え」

「おかしいですよね。でも、これがみんなに話せる限界なんです。これ以上は、話せない。……話したく、ないんです」


 カナデはその、国旗のようなカードを凝視する。


「……なんじゃこりゃ」

「カナデくん。きっとわかってくれるって、そう思ってます」

「だったら直接言ってくれたって」

「それが、わたしにはできないんです。……したく、ないんです」


 悔しそうに手を握る葵の様子に、カナデは眉間に皺を寄せる。


「アオイちゃん。聞きたいことがあるんだけど」

「……? はい。なんでしょう」


 カナデは一度カードを畳み、葵の目を真っ直ぐ見つめる。


「アオイちゃんは、アキのこと好きなんだよね?」

「……お友達として好きですし、恋愛として好きでもあります」

「それがよくわかんないんだよねー……」

「すみません。言えなくて」


 でもなんだか、カナデの雰囲気が和らいだ気がした。


「アオイちゃんは、アキとの結婚楽しみ?」

「……正直なところ、楽しみな自分もいるし、楽しみじゃない自分もいます」


 そう言うと、「そっかー」とカナデは葵の頭を撫でてくる。


「か、かなでくん……?」

「俺今日、リボン持ってきてないからさー」


 そう言って彼は、チョコに結ばれた青と橙を抜き取り、葵の左手首に結んだ。


「カナデくん……」

「あ。アオイちゃん勘違いしてる」

「え?」

「俺、『今日リボン持ってきてない』って言ったでしょう?」


 よくわからないけど、カナデはなんだか嬉しそうだ。


「本当に巻きたかった色は、赤と桃と紫と青と白なんだよねー」

「い、いっぱいですね……」


 カナデは膝を抱え、そこに頭を埋めながら胸の内を話してくれた。


「……すっごい。嫉妬した。正直、自分がここまでなるなんて思ってなくて」


 ほんのりと、耳がピンク色に染まって見える。


「アキのこと、ずっと前から好きだったって言われてもう、気がおかしくなった。なのによくわからないこと言われるし。アオイちゃんは、好きがわからないって言って俺のこと振ったのに、嘘つかれたんだと思ってショックだったんだ」

「嘘じゃ……」

「うん。よくわかんないんだけど、嘘じゃないんだなって思ったよ。それはちゃんとあの時からわかってた」

「……ごめんなさい」

「話したくても話せない?」

「それもあります。でも、話したくない気持ちもあるんです」