葵は、何も言わないカナデの前へ、そっとカードを差し出す。
「……? これは?」
「キサちゃんに、『わかりやすく言えないなら、難しく言えばいいんだよ』って、言ってもらったんです」
「え」
「おかしいですよね。でも、これがみんなに話せる限界なんです。これ以上は、話せない。……話したく、ないんです」
カナデはその、国旗のようなカードを凝視する。
「……なんじゃこりゃ」
「カナデくん。きっとわかってくれるって、そう思ってます」
「だったら直接言ってくれたって」
「それが、わたしにはできないんです。……したく、ないんです」
悔しそうに手を握る葵の様子に、カナデは眉間に皺を寄せる。
「アオイちゃん。聞きたいことがあるんだけど」
「……? はい。なんでしょう」
カナデは一度カードを畳み、葵の目を真っ直ぐ見つめる。
「アオイちゃんは、アキのこと好きなんだよね?」
「……お友達として好きですし、恋愛として好きでもあります」
「それがよくわかんないんだよねー……」
「すみません。言えなくて」
でもなんだか、カナデの雰囲気が和らいだ気がした。
「アオイちゃんは、アキとの結婚楽しみ?」
「……正直なところ、楽しみな自分もいるし、楽しみじゃない自分もいます」
そう言うと、「そっかー」とカナデは葵の頭を撫でてくる。
「か、かなでくん……?」
「俺今日、リボン持ってきてないからさー」
そう言って彼は、チョコに結ばれた青と橙を抜き取り、葵の左手首に結んだ。
「カナデくん……」
「あ。アオイちゃん勘違いしてる」
「え?」
「俺、『今日リボン持ってきてない』って言ったでしょう?」
よくわからないけど、カナデはなんだか嬉しそうだ。
「本当に巻きたかった色は、赤と桃と紫と青と白なんだよねー」
「い、いっぱいですね……」
カナデは膝を抱え、そこに頭を埋めながら胸の内を話してくれた。
「……すっごい。嫉妬した。正直、自分がここまでなるなんて思ってなくて」
ほんのりと、耳がピンク色に染まって見える。
「アキのこと、ずっと前から好きだったって言われてもう、気がおかしくなった。なのによくわからないこと言われるし。アオイちゃんは、好きがわからないって言って俺のこと振ったのに、嘘つかれたんだと思ってショックだったんだ」
「嘘じゃ……」
「うん。よくわかんないんだけど、嘘じゃないんだなって思ったよ。それはちゃんとあの時からわかってた」
「……ごめんなさい」
「話したくても話せない?」
「それもあります。でも、話したくない気持ちもあるんです」



