すべてはあの花のために⑥


 時刻は7時10分。
 多目的室では普段、書道の授業を行っている。


「(なんだかんだ、わたしが見つけやすいようにしてくれてるのかなって、そんな感じがするんだよね)」


 ガラガラと音を立てて教室へと入っていったのだけれど。


「……あれ? いない……」


 勘が外れてしまってどうしようかと思っていると、奥の方からひょっこり彼が顔を出してくれた。


「アオイ、ちゃん……?」

「あ。いらっしゃったんですねカナデくん」


 いなかったら次は音楽室に行こうかと思っていたけれど。


「ど、どうしたの? 何か連絡事項?」


 少し怯えた様子のカナデは、どこか捨てられた子犬のようで。


「……じゅるっ」

「えっ」


 カナデは恐怖で体を震わせた▼


「カナデくん。わたしに少しだけお時間下さい」

「え?」


 葵は、リボンを結んだチョコをカナデの前に突き出す。


「……アオイ、ちゃん……」

「カナデくん。返事を下さい」


 カナデはちょっと困ったように笑いながら、まずは白を解いて左手首に巻こうとしたのだけれど。


「……!? なんで赤色結んでるの!?」

「え? ああこれは」

「何。アキでしょ。どうせ。そうだよね。アオイちゃんアキが好きだもんね」


 そう言って白を結ぶ前に、チョコだけ奪ったカナデは部屋の隅に逃亡。


「カナデくん。怒ってますか?」

「はい。大変怒ってます」


 葵はクスリと笑って、彼の横にちょこんと、壁にもたれるように座る。


「勘違いですよ? 白、結んでくれたら話せます」

「……聞きたくないんだけど」

「だから勘違いって言ってるでしょうが、さっさと結んでよ」

「……!」


 カナデは恐怖に震え上がりながら、でも嫌そうな顔で赤を見ながら、白を結んでくれた。


「カナデくん? 青へのお返事は、白のあとで構いませんので」

「え? 別にアオイちゃんは」


 カナデの顔の前に指を一本立てて、言葉を止める。


「カナデくん。この間は『ごめんなさい』」


 こうなってしまっては、もう青も白も同じようだけれど。


「この間は、カナデくんを怒らせるようなことをして『ごめんなさい』」

「アオイちゃん……」

「カナデくんにあんな悲しそうな顔をさせてしまって、『ごめんなさい』」

「…………」

「あれ以上は。話したく、なくて。……話せなくて。……っ、ちゃんと全部。話してあげられなくて、『ごめんなさい』」