時刻は7時10分。
多目的室では普段、書道の授業を行っている。
「(なんだかんだ、わたしが見つけやすいようにしてくれてるのかなって、そんな感じがするんだよね)」
ガラガラと音を立てて教室へと入っていったのだけれど。
「……あれ? いない……」
勘が外れてしまってどうしようかと思っていると、奥の方からひょっこり彼が顔を出してくれた。
「アオイ、ちゃん……?」
「あ。いらっしゃったんですねカナデくん」
いなかったら次は音楽室に行こうかと思っていたけれど。
「ど、どうしたの? 何か連絡事項?」
少し怯えた様子のカナデは、どこか捨てられた子犬のようで。
「……じゅるっ」
「えっ」
カナデは恐怖で体を震わせた▼
「カナデくん。わたしに少しだけお時間下さい」
「え?」
葵は、リボンを結んだチョコをカナデの前に突き出す。
「……アオイ、ちゃん……」
「カナデくん。返事を下さい」
カナデはちょっと困ったように笑いながら、まずは白を解いて左手首に巻こうとしたのだけれど。
「……!? なんで赤色結んでるの!?」
「え? ああこれは」
「何。アキでしょ。どうせ。そうだよね。アオイちゃんアキが好きだもんね」
そう言って白を結ぶ前に、チョコだけ奪ったカナデは部屋の隅に逃亡。
「カナデくん。怒ってますか?」
「はい。大変怒ってます」
葵はクスリと笑って、彼の横にちょこんと、壁にもたれるように座る。
「勘違いですよ? 白、結んでくれたら話せます」
「……聞きたくないんだけど」
「だから勘違いって言ってるでしょうが、さっさと結んでよ」
「……!」
カナデは恐怖に震え上がりながら、でも嫌そうな顔で赤を見ながら、白を結んでくれた。
「カナデくん? 青へのお返事は、白のあとで構いませんので」
「え? 別にアオイちゃんは」
カナデの顔の前に指を一本立てて、言葉を止める。
「カナデくん。この間は『ごめんなさい』」
こうなってしまっては、もう青も白も同じようだけれど。
「この間は、カナデくんを怒らせるようなことをして『ごめんなさい』」
「アオイちゃん……」
「カナデくんにあんな悲しそうな顔をさせてしまって、『ごめんなさい』」
「…………」
「あれ以上は。話したく、なくて。……話せなくて。……っ、ちゃんと全部。話してあげられなくて、『ごめんなさい』」



