すべてはあの花のために⑥


 時刻は6時。


「お母さ~ん!」
「あかりさーん!」
「アカリさん!」

「あらま~! ありがとうみんな!」


 登校する前に、アカリへ緑を。娘のキサは赤のリボンも結んでチョコをあげた。ちゃちゃちゃ~っとアカリは嬉しそうにキサの左手首に赤を結んであげていて、二人とも嬉しそうだった。


「葵ちゃん、少しだけいいかしら?」


「それじゃあ、行ってきまーす!」と、言いかけたところでアカリに呼び止められる。二人は、「じゃあ外で待ってるねー?」と言って空気を読んで家を出た。


「何でしょうアカリさん」

「……何があったの?」


 人一倍よく周りが見えているアカリは、険しい顔をして葵にそう問いかけてくる。


「実は、みんなと喧嘩してしまって」

「ええ。それは紀紗ちゃんから聞いてるから知ってるわ。あたしが言ってるのは、葵ちゃん自身のことよ」


 ズバッと切り込むように言ってくるアカリは、結局桜庭に戻ったのかどうかは知らなかった。あれだけのことをされたら、縁を切ったのだろうと思うけれど。


「切ってないわよ?」

「えっ?」


 どうやらまた漏れ出てしまっていたらしい。


「葵ちゃんにはちゃんと報告できてなかったわね。あたしも、それから杜真くんの方も、結局のところ本家とは縁は切ってないわ。腹立つことにね」


 そこまで腹立ってるなら切ってしまえばいいのに……。


「なんでかっていうと、何かあった時に使えるからよ」

「え?」


 アカリは葵を引き寄せてやさしく抱き締めてくれた。


「何があったのかは知らない。言えないのなら無理には聞かない。……でも、そんなあなたを見ているのがとてもつらいの」

「……あかり、さん」

「写真見て涎垂らしてる方がまだいいわ」

「(まだってどういうこと……?)」

「何かあるなら手を貸す。それこそ、家を動かすくらいの気概はあるつもりよ」

「――!!」


 葵はその発言に、驚いて目を見開く。


「そ、れは。……絶対に、ダメです」

「でも決めるのはあたしよ? 葵ちゃんに何かあったなら、それぐらいしたいって思ってるもの」

「そこまで大層なことは……」

「だから安心して? あなたがつらかったら、いつでも手助けしてあげられるから」


「あたしはあなたの味方だから」と。アカリはそう言ってくれた。
 葵は、そうなるようなことはしたくなかったけれど、つい嬉しくなって、しばらくアカリにぎゅっと抱きついていた。


「……行ってきます。アカリさん」

「うん。……いってらっしゃい、葵ちゃん」


 ふっと、葵はアカリから離れた。靴を履いて、アカリを見上げる。


「そう言っていただけて、すごい嬉しかったです。気持ちが楽になりましたし、心が決まりました」

「そう……」


 扉を開けて、彼女の方を振り返る。


「やっぱりみんなが、みんなの家族が、友達が、わたしは大好きですっ」


 そう笑いながら言った葵の顔には、もう仮面は着いていなかった。