時刻は6時。
「お母さ~ん!」
「あかりさーん!」
「アカリさん!」
「あらま~! ありがとうみんな!」
登校する前に、アカリへ緑を。娘のキサは赤のリボンも結んでチョコをあげた。ちゃちゃちゃ~っとアカリは嬉しそうにキサの左手首に赤を結んであげていて、二人とも嬉しそうだった。
「葵ちゃん、少しだけいいかしら?」
「それじゃあ、行ってきまーす!」と、言いかけたところでアカリに呼び止められる。二人は、「じゃあ外で待ってるねー?」と言って空気を読んで家を出た。
「何でしょうアカリさん」
「……何があったの?」
人一倍よく周りが見えているアカリは、険しい顔をして葵にそう問いかけてくる。
「実は、みんなと喧嘩してしまって」
「ええ。それは紀紗ちゃんから聞いてるから知ってるわ。あたしが言ってるのは、葵ちゃん自身のことよ」
ズバッと切り込むように言ってくるアカリは、結局桜庭に戻ったのかどうかは知らなかった。あれだけのことをされたら、縁を切ったのだろうと思うけれど。
「切ってないわよ?」
「えっ?」
どうやらまた漏れ出てしまっていたらしい。
「葵ちゃんにはちゃんと報告できてなかったわね。あたしも、それから杜真くんの方も、結局のところ本家とは縁は切ってないわ。腹立つことにね」
そこまで腹立ってるなら切ってしまえばいいのに……。
「なんでかっていうと、何かあった時に使えるからよ」
「え?」
アカリは葵を引き寄せてやさしく抱き締めてくれた。
「何があったのかは知らない。言えないのなら無理には聞かない。……でも、そんなあなたを見ているのがとてもつらいの」
「……あかり、さん」
「写真見て涎垂らしてる方がまだいいわ」
「(まだってどういうこと……?)」
「何かあるなら手を貸す。それこそ、家を動かすくらいの気概はあるつもりよ」
「――!!」
葵はその発言に、驚いて目を見開く。
「そ、れは。……絶対に、ダメです」
「でも決めるのはあたしよ? 葵ちゃんに何かあったなら、それぐらいしたいって思ってるもの」
「そこまで大層なことは……」
「だから安心して? あなたがつらかったら、いつでも手助けしてあげられるから」
「あたしはあなたの味方だから」と。アカリはそう言ってくれた。
葵は、そうなるようなことはしたくなかったけれど、つい嬉しくなって、しばらくアカリにぎゅっと抱きついていた。
「……行ってきます。アカリさん」
「うん。……いってらっしゃい、葵ちゃん」
ふっと、葵はアカリから離れた。靴を履いて、アカリを見上げる。
「そう言っていただけて、すごい嬉しかったです。気持ちが楽になりましたし、心が決まりました」
「そう……」
扉を開けて、彼女の方を振り返る。
「やっぱりみんなが、みんなの家族が、友達が、わたしは大好きですっ」
そう笑いながら言った葵の顔には、もう仮面は着いていなかった。



