すべてはあの花のために⑥


 深夜2時。目が覚めたユズは、お手洗いに行ったあと、冷えた体をさすりながらまた布団に入る。うつらうつらしていると、誰かが起き上がって机に向かった。


「(ん~……? あおい。ちゃん……?)」


 ふらふらと、陽炎のように歩くその姿は、少しだけ不気味だった。
 電気は点けず、スマホの画面を使って何かを読んでいるようだ。

 それからしばらくして、その葵らしき人影は、布団に戻ってきたのだが……。


「(……今の。本当にあおいちゃん……?)」


 葵のような人影から見えた瞳は、赤く光っているような気がした。


 ――――――…………
 ――――……


 バレンタイン当日。時刻は5時。
 どうやら今日一日はずっと自習になっているらしく、HRもないらしい。

 始業チャイムと同時にリボン作戦はスタートされるらしいが、如何せん終業までは長すぎる。生徒会メンバーは、この日は朝早くに学校へ潜伏し、一日バレないように過ごすそう。かくれんぼのロングバージョンだ。
 なので朝早くに起きて、アカリのおいし~い朝食を戴いたあと葵たちは支度をしていた。

 キサは部屋で着替えを先にしている。ユズは歯磨きをして、葵は顔を洗ったあと、コンタクトを入れていた。


「あおいちゃんって目、悪いんだっけ?」

「あ。えっと、実は最近ちょっと視力が悪くなって……」


 そう言って葵は、慣れたようにコンタクトを着けた。


「ん? どうかしましたかユズちゃん」

「……ううん? 綺麗な黒い瞳だなあ~って思っただけだよ」


 ユズは着替えに部屋へと戻ったが、そのあと葵は鏡でしばらく自分の瞳を見つめていた。