すべてはあの花のために⑥

 _______________
 ───────────────
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 皇 秋蘭 様


 突然のお手紙で、驚かせてしまってごめんなさい。

 カエデさんからきちんと渡ったみたいでよかったです。

 カエデさんには、アキラくんがわたしの婚約者候補だと知ったら、この手紙を渡すようにお願いしていました。

 だから、カエデさんを責めないでくださいね?

 これは、わたしの我が儘だったので。



 アキラくんにきちんとお返事をしなかったのには理由があったんです。

 …………アキラくん。わたしのこと、好きになってくれてありがとう。そう言ってもらえて、本当に嬉しかったです。

 わたしが婚約者候補だと知った時、もしかしたら『わたしがあなたを好いているから』と、誰かから聞くかもしれません。

 否定はしません。確かに、あなたを好いているわたしもいるからなんです。


 でも、ごめんなさい。アキラくん。

 あなたのこと、心からお友だちとして大好きです。でもわたしの中には、ちゃんと恋愛として好きな気持ちもあります。

 言ってることが、よくわからないかもしれない。でも、本当のことなんです。

 わたしはもう、みんなに嘘はつきたくないから。


 アキラくんと結婚したいと言ったのは、そのわたしの中にある、あなたが好きな『わたし』です。

 でも、あなたが好きと言ってくれたわたしは、あなたの気持ちには答えられません。



 この婚約も、わたしはするつもりはありません。

 恐らく傷つけてしまうでしょう。すみません。でも、これが本当の、わたしの本音なんです。

 でも、あなたにはちゃんと知っていて欲しかったんです。

 あなたにわたしの気持ちを直接伝えられなかったのは、あなたを好きな『わたし』がいたからです。


 あなたを好きな『わたし』が、あなたを、みんなを傷つけてしまうんじゃないか。

 今のわたしにとっては、それが一番怖いことです。



 アキラくん。この手紙のことは、決して誰にも言わないでください。

 アキラくんには、知っておいて欲しいと思って、言いたくありませんでしたが、勇気を出して言うことにしました。

 もしかしたら、何を言ってるのかわからないかもしれませんね。それでも構いません。

 あなたのことを友達として好いているわたしの気持ちが、きちんとあなたに伝わっていれば、それで十分です。



 ……だからどうかお願いです。

 わたしのことをまだ好いていてくれるのであればどうか、このことはみんなには言わないでください。

 わたしにとって、このことを話すのは勇気がいりますし、とてもつらいです。あなたの心の内にだけ、留めておいてください。


 ……もしよかったら、いつも通り、接してくれると嬉しいです。

 それでは、また。



             あおい

 _______________
 ───────────────
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄