すべてはあの花のために⑥


「ユズちゃんは、カナデくんに赤いリボンを巻きますか?」


 渡す相手がいないというのは、きっとまだカナデが好きなんだと思った。


「ううん! あたしは橙色のリボンにするよ」

「え?」


 でもさっき、特定の人はできてないって……。


「あたしはかなくんを応援することにしたのだ!」

「ユズちゃん……」

「あおいちゃんが気にすることはないんだよ? まあ、あおいちゃんとくっついたらいいな~とは思うけど、それを選ぶのはほかでもないあおいちゃんだしね? かなくんのお背中を押しちゃいたいと思いますっ」


 彼女の顔は、やっぱりまだ彼のことは好きみたいだった。けれどそれ以上に、どこか楽しそうだ。


「そう思えるのは、すごいですね」

「あおいちゃんは? 好きな人できた?」


 小さく笑うユズに、葵は緩く首を横に振った。


「わたしには。まだ……」

「そっかー。いつ恋に落ちるかな? 楽しみ?」


 葵は少しだけ仮面をずらし、満面の笑みで答える。


「はいっ。そうですね!」


 そのあとはユズも嬉しそうに笑ってくれた。
 それから失敗することなく、みんな順調に作り終わり、あとはリボンを結ぶだけとなった。キサは、キクには【赤と桃と白と緑】を結び、あとのみんなには【水色】を結んでいた。


「き、キサちゃん。水色って……」

「ん? みんな『反省しろやコラ』っと思って!」


 いや、楽しんでるし。
 まあ葵も、理事長には冗談のつもりで水色結びますけどね。ユズは一つだけ【橙と紺】で、あとは【紺一色】を結んでいた。


「ゆ、ユズちゃんは……」

「え? ああ~一番はかなくんを応援してるけど、みんなもそこそこ頑張れーっと思って!」


 なんだろう。何故かこの二人も敵にまわさない方がいいと、葵は思った。


「あっちゃん……」

「葵ちゃん。て、手伝おうか……?」

「大丈夫です……!」


 最初は【青と白】だけにしようと思ったのだけれど、途中から『やっぱり橙も結びたい!』と思い、一つの箱に3本結んでいるからである。


「(まあ一人だけは橙色じゃなくて黄色だけど……)」


『ごめんけど。オレはあんたのこと、友達だなんて最初から思ってないから』


 そう突き放されたのが、一番堪えた。心が、本当に壊れるかと思った。


「(……それと、もう一人)」


 みんなのご家族やトーマには、日持ちの関係で手作りにはできなかったが、【緑と紺】をそれぞれ結んで事前に送っているので、明日の午前中には着くはず。一箱だけ、今は何もリボンは掛けずに、そっと鞄の中へとしまった。