すべてはあの花のために⑥


 シランは、今もずっと苦しそうな顔をしているみんなに小さく笑いかける。


「楓。今日はみんなを送ってあげてくれるかな?」

「はい。承知致しました」


 そう言ってカエデはその場を去り、入り口の方へ車を回すから乗るようみんなに指示をした。


「あ。みんな、それあげるからねー」


 そう伝えるのは、みんなが着ているドレスやタキシード。


「え。紫蘭さん。それいじめでしょ」

「翼くんが素直に着ちゃうのが悪いよねー」


 どうやらツバサはドレスを持って帰らないといけないみたいだ。


「(また親父になんか言われそー……)」


『親父』だなんて、本人の前で言ったらそれこそぶっ殺されそうだけどと思いながら二つの意味でツバサは肩を落としていた。


「み、んな」


 アキラがようやく重い口を開く。


「俺も、ちょっとほんとによくわかってないし、何より向こうの気持ちが、よくわかってない」


 そう言うアキラに、みんなして弾かれるように頭を上げた。

『葵はまだ――アキラにだけ――返事をしていない』


「今から父さんにちゃんと話を聞く。それから明日は道明寺に行ってくる。ちゃんと自分の中で消化して、話せそうなら話すから。それまで待っててくれ」


 アキラは何とか自分を保って、そうみんなに話した。



「お待たせしました。皆様、お送り致します」


 車を回したカエデが、みんなが来ないので迎えに来た。


「それじゃあみんな、気をつけてね? お風呂で考え事して逆上せないようにね? 夜風に当たって風邪引かないようにね? 徹夜とかしないようにね? 今日はみんな早く寝ましょう! それでは、良いお年を? になるのかな?」


 一人だけわかってるシランが、そんなことを言ってるけど、みんな顔が引き攣っていたので、どうやらそんなことをしそうだったと思ったらしい。
 そのあとみんなはぎこちなくお辞儀をしながら、パーティー会場から退出していった。