「……わかった。取り敢えず、あおいちゃんはきちんとみんなに話せる範囲でわかりやすく伝えてるのに、みんなは……まあ私もだけど、わかってもらえなかった。それで、みんなあおいちゃんのことが好きで、心配だったから怒っちゃったのね?」
「え。そこまで言ってなかったはずなんですけど……」
「何となくわかるわよ。生徒の恋愛相談なんて、たくさん受けてたもの。ぷぷっ」
いや、ぷぷって。めっちゃ楽しんでたんですね……。
「それで、今度は話せる範囲で、逆に難しくみんなに伝えようとしてるってことね?」
「はい。そうなんです」
そこで葵は、鞄の中からあるカードを取り出した。
「先生。わたしと賭けをしてもらえないでしょうか」
にこりと笑いながら、葵はコズエの手に握られている銀を指差した。
「……内容は?」
「このカードに、わたしが話せる範囲で難しく書いた内容が書かれてます」
葵は、二本の指で挟んだカードを掲げる。
「このカードは先生に差し上げますが、書かれている内容がわかれば先生の勝ち。お手上げでしたらわたしの勝ちです」
「……賭けるものは?」
「この間、わたしは先生に『みんなを守ってあげてください』って言いました。覚えてますか?」
「ええ。よく覚えてるわ」
「それとは別なんですけど……」
「え。関係ないの?」
「え。はい。そうですけど?」
「な、なによう。ちょっと身構えちゃったじゃない……」
葵はそんなコズエににっこり笑って。
「わたしが勝ったら、また遊びに来てもいいですか?」
そんなことを言う葵に、コズエはさっさと銀のリボンを巻き付けた。
「み~ぎ~……っ!」
答えはノー。
「そっかあ。もう、来ちゃダメだったんですね……」
「いや違うから。あおいちゃん」
「わたしのくじ運は、今きっとどん底です……」
「最後まで聞きなさい」
ちょっとドスが効いた声だったので、葵はシャキッと背筋を伸ばした。
「はあ。……いつでも来ていいに決まってるじゃない」
「へ?」
「だってあなたはみんなのお友達だし、私の生徒だもの」
「で、でも、ご迷惑じゃ」
「寧ろ大歓迎よ。あなたとお話しできて、私は嬉しいもの」
コズエは、本当に嬉しそうに笑ってくれた。
「どうする? 違う賭けにする?」
「……じゃあ、もう一つの方にしてみてもいいですか?」
一応準備してきていた。もう一つの賭けの内容。
「先生。わたしが勝ったら、先生が味方に欲しいです」
「……味方、ね」
「恐らくあなたも、わたしの家のことを知ってるんじゃないかと思うんです」
「ええそうね」
「わたしの味方に、よければなってもらえないでしょうか。決して大袈裟なことではないんです。ただ……わたしの、捌け口になって欲しくて」



