ぎゅっと膝を抱え込み、葵は小さくなる。
「家のためになることをするのが、わたしにとっての幸せだと思っていました」
でも、そうじゃないって、教えてくれた。
「わたしにとって一番大切なものは『家』じゃない。『みんな』だから。大好きなんです。大事なんです。みんなのご家族の方も大切だし、大好きです。たくさんの人たちに、好きとか家族とか教えてもらいました」
その、大切な人たちを幸せにするには、たとえ自分が犠牲になっても、幸せになんかできない。自分が本当に幸せじゃないと、みんなも幸せになれないらしいから。
「幸せになりたい。気持ちは変わったんです。いろんな人にたくさん教えてもらって、これ以上ないくらい、今胸があたたかい……」
葵は顔を膝に埋めた。
「病だって、絶対治るって信じてます。だからみんなにも言うつもりはありません。でも、わたしは家が決めた道を行きます。行かないと、いけないんです。わたしがこの道から。逸れたらいけないんです」
『みんな』が、幸せにはなれないから。
「でも、おかしいです先生。みんなはわたしが本当に幸せになったら幸せになるんですよ。でもわたしは、どうやったってこの道から逸れることなんてできない」
自分の考えが、それをしては絶対にいけないって、そう言っているから。それにきちんと納得してるから。それは、それでいいんです。
「でも、幸せになりたい。みんなを、幸せにしてあげたいんです……」
とんとんと。いつの間にきたのか、葵の隣に座って頭をやさしく叩いてくれている。
「ここに編入してきた時、理事長にはわたしのことを絶対に話さないでくださいって約束したんです」
「……そうか」
「それから一年。彼は誰にも言わずにいてくれました。だから、彼から『願い』を言われても全然苦ではないですし、初めての友達のためなら、わたしはたとえ病に罹ってても時間が迫ってても、それを叶えることにしたんです」
「だから、当たり前なのか」
「……叶えると、その『願い』を聞き入れた時は、そう思っていました」
葵は手に力を入れる。
「でも、理事長がどうしてこんな『願い』を言ってきたのか。わかったんです」
「……? あいつらを助けて欲しい以外に何か、理由があったのか?」
「理事長は。わたしのことも助けるつもりでいるんだって。……そう、わかったんです」
「……病からってことか?」
「それはわかりませんが、彼がしたいのはきっと……たとえて言うなら『雑草を摘み取る』感じ、でしょうか」
「雑草? また生えてくるじゃねえか」
「そうですね。端から見たら、ただの気休めのような感じです」
「……お前さんからしたら?」
「雑草って、その花の生長を妨げたりしちゃうんです。でも、それを少しでも取り除こうとしてくれてるんです。本当に、理事長には頭が上がりません」
「……お前さんにとっても、『願い』を叶えることはいいことなんだな」
「はい。……これ以上ないくらいの気休めです」
「そうかそうか」
そう言ってキクは、やさしく頭を撫でてくれていた。
「キク先生は。何も聞かないんですか」
「だって、聞いて欲しくないんだろ?」
「そう。ですけど」



