「(でも俺が頼まれたのはここまでだ)」
彼女の話を聞く限り、これ以上は危険と忠告された。
「(近づくことすらできないなら。俺が君を呼ぶことなんて、できないじゃないか)」
一応はカエデに彼女自身やその身辺を調べるよう頼んだが、彼でもどうやらお手上げのよう。
「(一体誰に……何に辿り着いたら、君を呼べるんだ)」
彼女を拾ったというミズカやヒイノも、自分の力ではわからなかった。
「(手掛かりがあるとすれば、あとは絵本ぐらいしか……)」
きっとこれにたどり着ければ、彼女を呼べるはずなんだ。
「(何としてでも君を、助けてあげたいんだ。俺も)」
たとえあんなことをしてたって、君は『そっち』に行ってはダメだ。
「(赤に乗っ取られたらお終いだ。君は『こっち』に来ないといけないよ。葵ちゃん)」
境界線を常に綱渡りして移動する彼女は、もう半分『向こう側』へと足を突っ込んでいるも同然。
「(誰なんだ一体。君を呼べる『資格』がある人は)」
シランはふと、目の前の彼らに視線を向けた。
「(どうして彼女は、危険なのに彼らのそばに……? 何故彼らを遠ざけない)」
いや、遠ざけてるのかもしれないがと思いながら、葵が話していたことを思い出す。
「(……そうか。『願い』か、葵ちゃん。彼らも『ーーー』だからだね)」
もしかしたら、彼らなら呼べるかもしれない。『資格』があるかもしれない。
「(俺は最初から知っていたからね。知らない彼らが『君』を知ってどうするか、ってところかな)」
彼女からは『話さないで』と言われた。
「(話しはしないよ。それじゃあ意味がない。彼らが自分で知るべきことだ)」
そして早く彼女を呼んであげてくれ。きっと君らしか呼べないんだ。



