「でも、今は執事は無理です」
「どうして?」
「言えません。すみません」
「いいよ。にしても、なんで理事長じゃダメなんだ? あの人なら絶対に話せるだろ」
「……聞かれるんです」
「は?」
「前、理事長と話しているのを聞かれたんです」
「え」
「だからもう、あそこで話すことはしません。誰に、何を聞かれるかわからないので」
アキラがあそこで聞いていた。それ以降も理事長は、葵自身に喋らせようとしていた。だからもう、彼に話したらいつみんなにバレてしまうかわからない。
「(もう。これ以上わたしには近づかないで)」
でも、近づいてくれてありがとうと。葵は矛盾を胸に心から感謝を告げる。
「キク先生。吐きます」
「……ほい。いつでもどうぞ」
飲み干したカップをテーブルの上に置いて、葵はソファーの上で膝を抱えて座り、膝に顎を乗せた。
「……みんなと。仲直りしたいんです」
ぽろぽろと、溢れるのは弱音。
「今までわたし、お友達って呼べるような人はいなくて。……みんなが友達になってくれるなんて、本当に奇跡だと思いました」
だって、……病に罹ってるし、時間ももう、そんなに残ってない。それでもみんなには、すごくたくさんよくしてもらった。それこそ、本当に当たり前のように。
「まだ、夢を見てるんじゃないかって。錯覚を覚えるほど」
でも、近づいてきてくれたみんなに、自分のことを話したくはない。絶対に話したらみんな、ショックだろうから。自分のことなんかもう、友達だなんて言ってくれなくなる。嫌いになる。
「最初で最後になるかもしれない友達を、なくすことが。わたしにとって今、一番の恐怖なんです」
キクは黙って、葵の弱音を聞いていた。
「家にはこんなこと、言えません。わたしに友達を作ることすら許しません。ましてや、みんなと友達だなんてバレてしまったら……」
家は、自分ことはどうでもいいと思っている。早く枯れることこそ、家が望んでることだ。
「家が決めた道を、ただ進むことが、わたしにとっての幸せなんです。……幸せ、だったはずなんです」



