すべてはあの花のために⑥


「こんなもんだな。オレが知ってるのは」

「わかりました」


 葵は、残りが少なくなったコーヒーに牛乳を足してレンジでチンした。


「……確認はできたか?」

「はい。もう十分すぎるほどに」

「吐くか」

「おえー……」

「いや違うだろうよ」

「ははっ。……まあ、キク先生をお呼びしたのは、吐く場所が少なくなっちゃったからなんです」


 ぐびぐび……と、葵はカフェラテを飲む。


「どういうことだ。マジで『ツラ貸せ』って言われた時はよいよ時間がなくなってきたのかと思ったぞ」

「そんな焦ってなかったじゃないですか」

「本当に時間がないなら、お前さんは誰にも何も言わないんじゃないかと思っただけだ」


 図星だったので、葵は一瞬目を見張った。


「お前さんもあいつらのこと大好きだもんな。病のことなんか言いたくないんだろう? 心配掛けまいとしてるんだろうが、それは逆にあいつらは嬉しくも何ともないし、寧ろキレるぞ」

「え?」

「お前さんのことを、あいつらも大好きだって言っただろ? だからなるべく一緒にいてやってくれって。……時間がないって知ったら、そりゃ驚くかもしれないが、もっとお前さんといたいって思うよ。喧嘩なんかしてる場合じゃないってな」


 キクはそう言うけど、葵は決して縦に顔は振らなかった。


「時間に関しては、みんなに言うつもりはありません」

「オレはお前さんが何か言わない限り何もしてやれない。ただ、オレだったら何で言わなかったんだって、今までのことすっげえ後悔するよ。もっとお前と、いろんなとこ行ったり、話したりできたんじゃないかってな」

「……そう、ですね」


 それ以上、もうこの話をするつもりはなかった。


「こういう話ができる人って、わたしにはとても貴重なんです」

「あいつらは? 知らないのか? 何も?」

「はい。言うつもりもありません」

「言ったら楽になるぞ。仲直りもできるじゃん」

「それよりもわたしは、みんなを巻き込むつもりはないので。巻き込まないと仲直りできないなら、わたしはずっと喧嘩したままでいいです」

「……そっか。そりゃつらいな」


 そう言ったキクも葵も、苦笑いだった。


「……家の人は? 言えないのか?」

「彼らには一番言えません」

「心配するからか? 迷惑掛けるからか?」

「……その、反対ですね」


 また、葵はカップを手に取って終わらせる。


「今まで話せたのは、執事と理事長だけでした」

「…………」

「きっと、話せる人はいるんですよ。多少は。みんなの中にも、何も聞かないでいてくれる人もいるし、ある程度知ってる人もいる。……でも、みんなは聞いてくるから」

「だから言えないのか?」

「……みんなを、絶対に巻き込みたくはないので」


 そう言った葵の目は、凄まじい強い意思が込められていた。