「こんなもんだな。オレが知ってるのは」
「わかりました」
葵は、残りが少なくなったコーヒーに牛乳を足してレンジでチンした。
「……確認はできたか?」
「はい。もう十分すぎるほどに」
「吐くか」
「おえー……」
「いや違うだろうよ」
「ははっ。……まあ、キク先生をお呼びしたのは、吐く場所が少なくなっちゃったからなんです」
ぐびぐび……と、葵はカフェラテを飲む。
「どういうことだ。マジで『ツラ貸せ』って言われた時はよいよ時間がなくなってきたのかと思ったぞ」
「そんな焦ってなかったじゃないですか」
「本当に時間がないなら、お前さんは誰にも何も言わないんじゃないかと思っただけだ」
図星だったので、葵は一瞬目を見張った。
「お前さんもあいつらのこと大好きだもんな。病のことなんか言いたくないんだろう? 心配掛けまいとしてるんだろうが、それは逆にあいつらは嬉しくも何ともないし、寧ろキレるぞ」
「え?」
「お前さんのことを、あいつらも大好きだって言っただろ? だからなるべく一緒にいてやってくれって。……時間がないって知ったら、そりゃ驚くかもしれないが、もっとお前さんといたいって思うよ。喧嘩なんかしてる場合じゃないってな」
キクはそう言うけど、葵は決して縦に顔は振らなかった。
「時間に関しては、みんなに言うつもりはありません」
「オレはお前さんが何か言わない限り何もしてやれない。ただ、オレだったら何で言わなかったんだって、今までのことすっげえ後悔するよ。もっとお前と、いろんなとこ行ったり、話したりできたんじゃないかってな」
「……そう、ですね」
それ以上、もうこの話をするつもりはなかった。
「こういう話ができる人って、わたしにはとても貴重なんです」
「あいつらは? 知らないのか? 何も?」
「はい。言うつもりもありません」
「言ったら楽になるぞ。仲直りもできるじゃん」
「それよりもわたしは、みんなを巻き込むつもりはないので。巻き込まないと仲直りできないなら、わたしはずっと喧嘩したままでいいです」
「……そっか。そりゃつらいな」
そう言ったキクも葵も、苦笑いだった。
「……家の人は? 言えないのか?」
「彼らには一番言えません」
「心配するからか? 迷惑掛けるからか?」
「……その、反対ですね」
また、葵はカップを手に取って終わらせる。
「今まで話せたのは、執事と理事長だけでした」
「…………」
「きっと、話せる人はいるんですよ。多少は。みんなの中にも、何も聞かないでいてくれる人もいるし、ある程度知ってる人もいる。……でも、みんなは聞いてくるから」
「だから言えないのか?」
「……みんなを、絶対に巻き込みたくはないので」
そう言った葵の目は、凄まじい強い意思が込められていた。



