「水やりって、当たり前のようにするだろ? あー今日も撒いとかなきゃなーって」
「……そうですね?」
「別に、ほっといても勝手に伸びるもんだろ? 草だって花だって。でも水ってやるんだよな。でも、お前さんが叶えている願いっていうのは、当たり前にできることじゃねえ。それは、お前さんもわかってんだろ?」
「それは……」
「なのにお前さんは、それが当たり前かのようにそれをして、当たり前のように『願い』を叶えてるように、オレは見える」
「……確かに、この『願い』は当たり前にできるようなことではないと思います」
「でもお前さんには、それが当たり前にできてしまう。お前さんは何であいつらを助けてやることを、さも当たり前のようにするんだ」
そう聞いてくるキクに、葵は小さく笑った。
「わたしだからです。そして彼らの友達だからです。すみません。それ以上は言いたくないので」
それだけ言って、この話は終わらせた。そんな葵にキクは少し眉間に皺を寄せるも、コーヒーを飲まれて逃げられた。
「はあ。……じゃあ、オレに言われた『願い』も話しておくか。理事長になんて言われたか、大方見当は付いてるんだろ?」
「……まあ、そうですね」
キクはガムを包みに捨て、また新しいガムを噛み出す。
『彼女が何かを言ってくるまで、水を増やすことも止めることもするな。花が枯れようとしてるのも止めるな。花が枯れた時、彼女が『願い』を叶えられていなかったら、お前がぼくの『願い』を叶えろ。そして、黒い花が咲いた時はあいつらを植え替えろ』
「……そんな感じか?」
間違っちゃいないけど、理事長はとことん面倒くさい言い回しをする。
「これが、理事長に言われた『願い』だな」
「そうですか。わかりました」
「トーマも『願い』を聞いたっていうのは、お前さんは知ってんのか?」
「なんとなくは。理事長がキク先生に言ったことと同じことを言ったかまではわかりませんけど」
「あいつを巻き込んだのはオレだからな。あいつにもきっと、同じように言ったんだと思う。……一緒に、背負ってもらうことにしたから」
「キク先生……」
『だから、無理はするな』と。『自分たちもいるんだから、いつでも言ってこい』と。そう、足りない言葉が伝わってくる。
「(……キサちゃん。いい目してるわ、やっぱり)」
と思うけれど、こんな面倒くさい人はちょっと遠慮したいと葵は思った。
「あんな言い方されて、わかったような、わかってないような感じだがなー」
「そう、でしょうね……」
理事長が上手に言えるところまでを言ったってところだろう。これ以上は『約束』を破ることになるから。



