すべてはあの花のために⑥


「まず、お前さんが道明寺だってこと」


 家族構成は父と母と娘、それから家政婦、使用人、娘に専属執事。
 道明寺財閥の総帥であり、当主である道明寺薊、妻の道明寺エリカ。


「家庭訪問に行ったからなー。家で知ってるのはそれくらい」


 無言を返すと「それじゃあ次はお前さん自身だな」と、察してくれたのか何も聞かないままキクは続きを話してくれた。


「お前さんのことは“ある病を抱えたとても可哀想な少女”だと聞かされていた」

「……そうなんですか」


 そしてトーマから聞いた全く同じ話を、彼も理事長から聞いたのだと話してくれる。例の『その花は開かずに、蕾のまま枯れ、赤かった蕾と混じり、黒い花を咲かす』という絵本の物語のような話だ。


「(またそんな言い回しさせて。キク先生に似合わないんだって)」


 毒を吐きに来たわけではないので飲み込んでおくけれど。


「言ってる意味はわからんかったが、この子は時間と病と、隣り合わせに生きてんじゃねえのかなと思ったんだよ」

「…………」

「だからお前さんには、無理するなよと言ってきた。オレがお前さん自身について知ってるのはそれだけ。わかったことも特にはない」

「そうですか」


 葵も一口コーヒーを啜った。


「それから、『願い』か」


 啜りかけて、一度止まる。


「あの時一緒の部屋にいたから、お前さんがどんな願いを叶えているのかも知ってるし、何をしてるのかも知ってる。……オレはただ、オレらがそれをできなかったからしてくれてんだと思ってる。だから感謝もしてる」

「してるように見えなんですが」


 だってガムくちゃくちゃしてるんだもん。このカップを投げつけたくてしょうがないんだもん。


「お前さんが叶えようとしてくれてる『願い』は、お前の友達に『水』をやること。枯れた地面じゃ、よっぽど強くねえと花なんか咲きゃしねえ」

「………………」

「あいつらが抱えてるのは家での問題だ。家族間の話にはなかなか手が出しづらい。何よりあいつら『助けて』なんて言やしねえ。お前さんがやってるのはあいつらに、ごく当たり前のように水をやって、あいつらの成長を助けること。それが願いだ」

「……あの。言ってて恥ずかしくないですか」

「だって台本にそう書いてある」

「そ、そうですか」


 取り敢えずもう一口コーヒーを啜った。


「ただ、『当たり前』ってのが引っ掛かんだよな」

「え?」