「まず、お前さんが道明寺だってこと」
家族構成は父と母と娘、それから家政婦、使用人、娘に専属執事。
道明寺財閥の総帥であり、当主である道明寺薊、妻の道明寺エリカ。
「家庭訪問に行ったからなー。家で知ってるのはそれくらい」
無言を返すと「それじゃあ次はお前さん自身だな」と、察してくれたのか何も聞かないままキクは続きを話してくれた。
「お前さんのことは“ある病を抱えたとても可哀想な少女”だと聞かされていた」
「……そうなんですか」
そしてトーマから聞いた全く同じ話を、彼も理事長から聞いたのだと話してくれる。例の『その花は開かずに、蕾のまま枯れ、赤かった蕾と混じり、黒い花を咲かす』という絵本の物語のような話だ。
「(またそんな言い回しさせて。キク先生に似合わないんだって)」
毒を吐きに来たわけではないので飲み込んでおくけれど。
「言ってる意味はわからんかったが、この子は時間と病と、隣り合わせに生きてんじゃねえのかなと思ったんだよ」
「…………」
「だからお前さんには、無理するなよと言ってきた。オレがお前さん自身について知ってるのはそれだけ。わかったことも特にはない」
「そうですか」
葵も一口コーヒーを啜った。
「それから、『願い』か」
啜りかけて、一度止まる。
「あの時一緒の部屋にいたから、お前さんがどんな願いを叶えているのかも知ってるし、何をしてるのかも知ってる。……オレはただ、オレらがそれをできなかったからしてくれてんだと思ってる。だから感謝もしてる」
「してるように見えなんですが」
だってガムくちゃくちゃしてるんだもん。このカップを投げつけたくてしょうがないんだもん。
「お前さんが叶えようとしてくれてる『願い』は、お前の友達に『水』をやること。枯れた地面じゃ、よっぽど強くねえと花なんか咲きゃしねえ」
「………………」
「あいつらが抱えてるのは家での問題だ。家族間の話にはなかなか手が出しづらい。何よりあいつら『助けて』なんて言やしねえ。お前さんがやってるのはあいつらに、ごく当たり前のように水をやって、あいつらの成長を助けること。それが願いだ」
「……あの。言ってて恥ずかしくないですか」
「だって台本にそう書いてある」
「そ、そうですか」
取り敢えずもう一口コーヒーを啜った。
「ただ、『当たり前』ってのが引っ掛かんだよな」
「え?」



