すべてはあの花のために⑥


「キク先生をお呼びしたのは、……少しお話がしたかったのと」

「……? のと?」

「ちょっと、確認をしておきたかったんです」

「確認? 何の」


 キクは何のことか本当にわからないようで、首を傾げている。


「キク先生を呼んだのは、話ができるからです」


 葵がそう言うと、キクは少しだけ、……本当に少しだけ、背筋が伸びたような気がしなくもない。


「……どういうことだ」


 そんな扱いをされても突っ込んでこないのは、流石大人と言うべきか。キクは真面目な顔を一応して、葵にそう問いかける。


「キク先生は、わたしの担任ですから、わたしを知っていますよね?」

「そうだな」

「確認というのは、あなたがわたしをどこまでご存じか。まあお調べになってわかったことも踏まえてでいいです。教えていただきたいと思ったんです」

「……それを、なんでお前さんが知る必要がある」

「知っている人になら、吐けるので」


 俯く葵の顔に少し、影が差した。


「気持ち悪いのか? バケツ持ってくるか?」

「違います要りません」


 わかってるくせに、若干のにやにやが『今はこちらが上ですよ~』と言ってきてるようでムカついた。


「そんな怒んな。……お前さん、あいつらと喧嘩したんだってな」

「それは……」

「キサにも言われたけど、お前さんたち見てたらそれぐらいわかる」

「え。わからないようにしてませんか……?」

「お前さんはな。でもあいつらの顔ときたら、毎日誰か死んだような顔してさ。まあ、それもちゃんとわかるのはオレとか理事長ぐらいだろうどな」

「……そう、ですか」


 みんなも、きっと端から見たらわからない程度だろう。


「それで? 吐くっていうのはどういうことだ」

「キサちゃんから聞いたんじゃないんですか?」

「いや、あいつから聞いたのは喧嘩したってことだけ。お前さんがどんなこと言ったとか、そんなことは何にも聞いちゃいない」


 キサも、葵の気持ちをちゃんと組んで、誰にも何も言わなかったんだ。たとえ、一番信用している彼氏のキクにさえ。


「その前に。話せる限度があるので、キク先生がどこまでご存じか教えていただけませんか?」


 葵がそう言うと、キクはコーヒーを飲み干しカップを置いた。


「……オレが知ってるのは少ないぞ」

「構いません。少しでも吐ける場所を、今は見つけておきたいので」


 葵がそう言うと、キクは煙草の代わりにガムを口に放り込んだ。