「キク先生をお呼びしたのは、……少しお話がしたかったのと」
「……? のと?」
「ちょっと、確認をしておきたかったんです」
「確認? 何の」
キクは何のことか本当にわからないようで、首を傾げている。
「キク先生を呼んだのは、話ができるからです」
葵がそう言うと、キクは少しだけ、……本当に少しだけ、背筋が伸びたような気がしなくもない。
「……どういうことだ」
そんな扱いをされても突っ込んでこないのは、流石大人と言うべきか。キクは真面目な顔を一応して、葵にそう問いかける。
「キク先生は、わたしの担任ですから、わたしを知っていますよね?」
「そうだな」
「確認というのは、あなたがわたしをどこまでご存じか。まあお調べになってわかったことも踏まえてでいいです。教えていただきたいと思ったんです」
「……それを、なんでお前さんが知る必要がある」
「知っている人になら、吐けるので」
俯く葵の顔に少し、影が差した。
「気持ち悪いのか? バケツ持ってくるか?」
「違います要りません」
わかってるくせに、若干のにやにやが『今はこちらが上ですよ~』と言ってきてるようでムカついた。
「そんな怒んな。……お前さん、あいつらと喧嘩したんだってな」
「それは……」
「キサにも言われたけど、お前さんたち見てたらそれぐらいわかる」
「え。わからないようにしてませんか……?」
「お前さんはな。でもあいつらの顔ときたら、毎日誰か死んだような顔してさ。まあ、それもちゃんとわかるのはオレとか理事長ぐらいだろうどな」
「……そう、ですか」
みんなも、きっと端から見たらわからない程度だろう。
「それで? 吐くっていうのはどういうことだ」
「キサちゃんから聞いたんじゃないんですか?」
「いや、あいつから聞いたのは喧嘩したってことだけ。お前さんがどんなこと言ったとか、そんなことは何にも聞いちゃいない」
キサも、葵の気持ちをちゃんと組んで、誰にも何も言わなかったんだ。たとえ、一番信用している彼氏のキクにさえ。
「その前に。話せる限度があるので、キク先生がどこまでご存じか教えていただけませんか?」
葵がそう言うと、キクはコーヒーを飲み干しカップを置いた。
「……オレが知ってるのは少ないぞ」
「構いません。少しでも吐ける場所を、今は見つけておきたいので」
葵がそう言うと、キクは煙草の代わりにガムを口に放り込んだ。



