『それと、もう一つ!』
言いながら、ビシッと指を立てたんじゃないかと思うくらいの勢いで、彼女は告げた。
『今日からあなたが、皇の次期当主だよ~ん』
「はいー……!?」
出てきた言葉は何ともふざけたもので、構えていただけにちょっと拍子抜けだったけれど。……その意味は、意図はわかった。
『というのは建前でも構いません。アキラくんが当主でなければ、この婚約は破棄されるのだから』
ちらり弟の方を見るが、彼は小さく笑っていた。と言うことは、何となく知っているんだろう。
それに自分も、申し訳ない気持ちで小さく笑いかけた後、弟の頭にぽんと手を置いた。
『アキラくんには、詳しくは話していません。シランさんには、わたしに提携を結んでもらう際、あなたという報酬と耳のそれを差し上げる代わりに、婚約破棄へ動いてもらう手筈になっていました。ですから彼には、シランさんの指示に従ってもらうよう、お願いしただけなんです。……彼には、とても申し訳ないことをしたと思ってます。わたしの身勝手なお願いにもかかわらず、やさしく頷いてくれました。だからシント! アキラくんのアフターフォローも追加でお仕事にします!』
「……はは」
これはまた……いやまあ、しょうがなかったにしても。思い切り振り回された弟には、しっかりケアを入れてやらないと。
『婚約がなければ、少なくとも彼の18になる誕生日当日に婚姻をあげることはないので、少しでも時間は延びるんじゃないかと思います。……まあ、それまでにわたしが枯れればお終いですが』
「……大丈夫だよ」
『でも、大丈夫だって信じてます。きっと誰かがわたしを呼んでくれる! ……だからシント? あなたの今まで頑張って調べてくれたわたしの資料も、バレないよう日記と一緒に皇へ送っています。まあ、これもだったので、急いで皆さんここへ来てくれたんですけど』
寂しげな声も、そうやって持ち直せるぐらい強くなった。
初めて会ったあの頃よりも、葵は強くなったんだなと、そう思った。
「あれ? でも、何で俺がここに来るって……」
『出会いの場所』
「え?」
『あなたのそれに、少しだけ細工をして、そこだけは頑張って記憶の欠片にしたんです。……会えてよかった。話せてよかったよ。シント』
「……あおい」
自分がここへ来ると、信じてくれていたのが嬉しかった。
彼女の方が、何倍もつらいのに苦しいのに。誰よりも何よりも、相手のことを優先する彼女のことが愛しいと、想いが溢れる。
『さあシント! これから頼みますよ?』
「……うん。任せてよ」
必ず助ける。
葵が必ず、……笑えるように。



