『だがしかしだよ!』
「へ……?」
『残念なことに、わたしは君を手放すつもりなんかないからね~。ごめんっぴー』
【わたしったら、シントのこと手放そうなんて微塵も思ってなくて。……皇には申し訳ないけど、シントはもうわたしだけのものだから。シントが帰るって言ったって、泣いて駄々捏ねたって放してあげるつもりは――】
「…………。ふはははっ。もうっ。さいっこう!!!!」
こんなにも甘くてやさしい拘束なら喜んで。
さっきまでの悔しさも涙も、もう彼女の言葉でどこかへ吹っ飛んだ。
『さあシント? 最後のお仕事、頼まれちゃってくれるかな?』
「うん! ……葵? お前の最初で最後の、最高すぎる執事さんの俺に、何でも言ってよ」
『そうか! 君ならそう言ってくれると思っていたよ!』
「え。これ録音だよね……」
『録音だよ~ん』
「いや、怖いわ。…………ははっ」
自分がこんなことを思うだろうと、もしかしたら言うと思っていたのか。そんなことまで予想できる彼女の言葉に正直、……怖いなんかよりも、嬉しさが募ってくる。
『それでは君に、重大任務を与えまっす!』
「ははっ。はい。どうぞー?」
明るい彼女の声に、自分も同じようなテンションで返す。
録音だって、もちろんわかってる。でも、返したくなるんだ。仕方ないじゃないか。
『一番信頼できる君に、わたしの今までの日記を預けます』
「え……」
『それでどうか、彼らと協力して『わたし』を呼んでください』
「え。ちょ、ちょっと待って。……葵。まさか……」
聞き間違いかと思った。
頑なに、正直自分にさえ中身は見せようとしなかった日記を、見せるその意図なんて……。
『……もう、わたし自体に時間が残ってないんです』
「……!!!!」
言葉にされたカウントダウン。自分の知らない間に、彼女に何があったというのか。
『でも、全ては絶対見せないで。必ず隠してください。わたしが彼らには絶対バレたくないこと。……でも、あなたの判断で話すのなら、それが正しいのでしょう。あなたに任せます。わたしの執事さん?』
「っ、……あ、おい……」
あの、頑なに守ってきた日記。それを、委ねてくれた。
本当にもう、時間がないのだと。それだけで、彼女が怖がっているのがわかる。
そんな彼女の側にいてやれないのがつらいけれど……でも、もう心は決まった。
彼女の執事として。最後に自分がするべきことは何なのか――――。



