すべてはあの花のために⑥


「あ。れ。……と、れた……」


 イヤーカフのようなものは取れたが、葵の話はまだ続いていた。


『どう、かな? 取れた? 【最高すぎる執事さん】に反応するようにしてたはずなんだけど……』

「はは。……うん。バッチリだよ」


 電話じゃないのに、葵の声についつい応えたくなる。


『……シント? 感謝状、わたしからなんです。受け取ってください』

「ん? え。もしかして筒の中? 何て書いてあるのか…………」


 スポンッと筒の蓋を開ける。そこには、本物の賞状のように、少し褪せた色の分厚い一枚の紙が入っていた。
 丸まったその紙を広げようとするけれど、その度に落ちそうになるレコーダーが気になってしまう。


『あなたは、わたしの執事として七年間、毎日お世話をしてくれました! ここに、あなたの感謝を表彰し、報酬も贈呈しちゃいますっ』

「は? 報酬って……?」


 一体何だろうか。暗くてよく見えないが、取り出した紙には葵の綺麗な字で、言葉にしてくれた文字が書かれているだけだった。筒の中にまだ何か残っているのかと思い、引っ繰り返して振ってみるけれど何も出ては来ない。


『シント! 目の前を見て!』

「え?」


 視線で三人に尋ねてみるけれど、首を傾げるだけ。ただ首を振っているだけ。

 葵は一体、何を報酬にくれようとしているのだろう。父はなんだか何となく知っているような雰囲気だけれど……。首を傾げていたら、向こうの彼女が、大きく息を吸った。


『あなたに本当の家族を返します』

「――!」

『今まで本当に。……お疲れ様でした!!!!』

「……。っ……。くそっ」


 その言葉は。聞きたくなど、なかった。
 そう言われるのだけは……。っ。ずっと避けたかったのにっ……。


『以上! 道明寺でもない花咲でもない、お日様をなくしてしまったあおいからでしたー!!!!』

「あおい……! ……。あお、い……。っ……」


 涙なんか、止まるわけがない。
 もう、彼女の声を聞くことができない。

 会えない。触れられない。食事の準備もしてやれない。服の準備だって。世話も。……してやれない。もう……何もしてやれない。
 彼女が助かる前に、自分に本当の家族が返ってくるということは、……そういうことなのだから。

 結局何もできなかった。あの家にいたくせに。
 結局わからなかった。一番近いところにいたはずなのに。

 執事のくせに。専属のくせに。……愛しい人さえ。救うことができないのか。